不登校の定義
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2019年4月10日 (水) 13:27時点における最新版
不登校の定義
「学校へ戻すことがゴールじゃない」文科省が不登校対応の歴史的な見直しへ
国が50年以上も続けてきた不登校の子どもへの対応を変えようとしています。
そもそも学校へ行ってない子どもは、いろんな理由や事情があって学校へ行っていません。
いじめや体罰、または本人にも理由がわからないけれども教室にいると苦しい、朝は立てないほどの目まいがする、という人もいます。
しかしこれまで国は、本人が抱えている理由や事情とは関係なく「学校へ戻すことだけがゴール」という不登校対応を先生たちに求めてきました。
そのため先生たちはまず学校へ戻そうとし、親もいっしょになって子どもを学校へ戻すように促しました。
その対応は、学校へ行けない子どもにとって傷つくものでした。
いまの自分が存在ごと否定され、「学校へ戻れない自分はダメだ」「このままでは大人になれない」と将来を悲観することにつながっていきました。
自ら死を選ぶ人もいました。
国や先生たちも、いやがらせで学校へ戻そうとしていたわけではありません。
学校へ戻そうとしたのは、日本の教育が学校だけに依存した制度になっているからです。
その制度に合わせて、企業など社会全体も学校の成績や学歴で人を見るようになってしまいました。
国としても、いますぐ教育制度や社会全体を変えることはできません。
そこで、ひとまず「理由はともかく学校へ戻れ」という不登校対応を変えることにしました。
「学校へ戻すことだけがゴールではない」というのが新しい不登校対応の方針です。
多くの学校や家庭で行なわれてきた「ムリをしてでも学校へ戻す」ことはNG対応になったのです。
国はいま、こうした新しい方針の徹底へと乗り出しています。
半世紀以上続く不登校史をふり返れば、いまようやく「歴史の転換点」に差し掛かろうとしています。
なぜ国は不登校の対応を変えようとしているのか、どんな「歴史的な見直し」が行われようとしているのか、そして、どのように変わっていくのかを解説します。
なぜ国は不登校対応を変えようとするのか
国が対応を変えていくきっかけになったのは、日本で初めてできた不登校に関する法律です(「教育機会確保法」2016年12月成立)。
法律では「個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること」と定めています。
これまでは「個々の状況には関係なく」学校へ戻すことを目標にしてきました。
しかし法律では「まず個々の状況を考える」ことが出発点です。これまでとは180度ちがうと言っていいでしょう。
国は新しい方針を知ってもらおうと、これまでに3度、公式に通達もしています。
すべての先生たちが参照する「新・学習指導要領」にも、その方針は明記されました。
しかし、国が方針を変えてから1年以上経ったいまでも学校現場の対応は変わっていません。
不登校対応の歴史的な見直しに乗り出した理由
先生たちに取材をすると、国が方針を変えたことについて「知らない」という返事が多く返ってきます。
先生たちからは「国からの指示が膨大すぎて重要な指摘も見落としてしまう」「校長らが新しい方針を信じられず、現場に指示ができないのでは」という声も聞かれました。
新しい方針について知っていても「状況を変えられない」という現場もありました。
不登校の子どもたちが集まる「教育支援センター(旧・適応指導教室)」のガイドラインでは「学校復帰」を目的にすることが設置の条件となっています。
国が「学校へ戻すことだけがゴールじゃない」と求めてきても、そもそも不登校の子を学校へ戻すためにつくったのが教育支援センターなのです。
ここに矛盾が生じています。
横浜市では今年4月から矛盾を解消すべく設置の要綱を独自に変えました。
しかし多くの教育支援センターでは、矛盾が解消されず、これまでどおり「ゴールは学校へ戻すこと」という対応が続けられています。
不登校の子らが集まる「フリースクール」の全国ネットワーク団体は、7月11日、国会議員や国に対して新方針が知られていないことや現場が混乱していることなどを訴えました。
国は問題点を認め「学校復帰」の文言を含む過去の通知をすべて見直すことを決めました。
不登校対応の絶対的な目標だった「学校復帰」という文言自体を見直すということは、不登校対応の歴史的な見直しになると言えます。
ただし、現段階では、過去の通知を誰が検証し「学校復帰」に変わってどんな言葉で国の姿勢を示すのかは不明です。
その結果に注意する必要はありますが、国の言葉どおりであれば「学校へ戻すことがゴールではない」と、すべての学校へ伝えられることになります。
不登校を取り巻く状況は、どう変わるのか
「学校に戻すことだけがゴールじゃない」という方針が広がれば、不登校の子どもと家庭にかかる圧力はいまよりも軽減されます。
家庭に圧力をかけないことは、子どもの居場所と安心を確保するうえでもっとも重要なことです。
また、フリースクールに通う子どもたちも増えてくるでしょう。
一般的にはあまり知られていませんが、フリースクールに通う子たちは不登校のなかでも3%とわずかです。
フリースクールに通う子どもが少ない理由の一つには「先生がフリースクールの存在を教えてくれない」ということがあげられます。
多くのフリースクールは、子どもを学校へ戻すことを目的とはせず、本人がフリースクールで安心してすごせることを目的にしています。
そのため「学校へ戻そうとしない場所だから」という理由でフリースクールを紹介しない学校の先生がほとんどでした。
しかし、子どもにあった情報提供をすることも法律で求められています。
フリースクールに通う子どもたちは増えてくるでしょう。
◎対応が変わっても問題はないのか
「学校へ戻すことがゴールではない」という対応に変わっても、不登校の子を取り巻く状況は多くの課題や問題が残ります。
一番の問題は日本の教育が学校だけに依存した制度になっていることです。
学校だけに依存した制度であるかぎり不登校は「イレギュラーな問題」として残り続けます。
そのうえでも新しい不登校対応が浸透していくのかが課題です。
もうひとつ「不登校の子は学校以外のどこへ行けばいいのか」という問題も残ります。
残念ながら不登校の子が通える場は整備されていません。
全国に小中学校は約3万校ありますが、これに対して教育支援センターは約1300施設。全自治体の6割しか設置していません。
フリースクールはさらに数が少なく約500カ所だと言われています。学校へ行かないすべての子が通える状況にはないのです。
多くの不登校の子どもは家庭を中心にすごしていますが、家庭の負担は大きいものです。
母と子のふたり暮らしで、子どもが小学校1年生で不登校になった家庭を取材したことがあります。
お母さんは「子どもを学校に預けられなかったら仕事ができない。かと言って自分の親も頼れない。『わが家では不登校なんて物理的にムリです』と子どもに頼んだ」と当時をふり返ってくれました。
結局、このお母さんは、なんとか急場をしのぎ、フリースクールと出会っています。
このようにインフラは未整備な状態です。
このほかにも、問題は多々あります。インフラが整うまでは、学校やフリースクールなどともつながれず宙ぶらりんな状態にさせられてしまう子どももいるでしょう。
不登校への注目が集まることで、新しい方針を理解せずに学校の先生が対応を急いでしまうことや不登校に対して理解の浅い「支援団体」が広がることも懸念されています。
問題は多々ありますが「学校に戻すことだけがゴール」という不登校対応は即座にやめるべきだと私は考えています。
不登校はシンプルな問題です。
学校へ戻りたくない子に対して、国ぐるみで子どもの気持ちを無視して学校へ戻そうとしていた、ここに問題があります。
学校だけが子どもの選択肢だった状況に無理があるのです。
まず考えるべきは50年以上にわたり不登校の子どもを苦しめてきた不登校対応です。
そのためにも国がどんな姿勢を示していくのか、不登校の子への圧力が本当になくなっていくのか、そのことを今後も追っていき、みなさんと考えていきたいと思っています。
〔2018年7/31(火)石井志昂 『不登校新聞』編集長、不登校経験者〕