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世田谷区立桜丘中学校

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ページ名 [[世田谷区立桜丘中学校]]  (  )<br>
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'''「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか'''<br>
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東京都世田谷区立桜丘中の前校長 西郷孝彦さん<br>
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「校則なし」を実現した公立中学校がある。東京都世田谷区の区立桜丘中だ。<br>
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服装や髪形は自由で、遅刻しても、教諭に大声で怒鳴られることはない。<br>
 +
定期テストやチャイムもない。<br>
 +
全国各地の学校ではいまだ、下着の色指定やツーブロック禁止など理不尽な校則がまかり通る中、桜丘中はどのように校則をなくしていったのか。<br>
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前校長の西郷孝彦さん(66)に聞いた。<br>
 +
'''校則はいったい誰のため?'''<br>
 +
3回にわたって考える3回目です。(共同通信=小川美沙)<br>
 +
―校則をなくしたきっかけは。<br>
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赴任した2010年当時、桜丘中は荒れていた。<br>
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服装や髪形に関する決まりがあり、教諭が声を荒らげて生徒を指導することもあったが、子どもたちを上から押さえつけたってうまくはいかないと感じていた。<br>
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学校にはさまざまな子どもがいる。「普通の子」なんて存在しない。<br>
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こだわりが強い、朝起きられない、制服が着られない、学習障害や発達障害がある…。<br>
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こうした個性や特性を考えずに、「靴下は白」「中学生らしい髪形」など合理的な理由がない校則を当てはめると、それがストレスになり、不登校になる。<br>
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廊下に設けられたスペースで過ごす桜丘中の生徒たち(2019年、西郷孝彦さん提供)<br>
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生徒全員に「学校は楽しい」と感じてもらえるにはどうすべきかを考えると、合理的な理由のある校則は一つもなかった。<br>
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それに、校則で「みんな同じ」を押しつけると、枠からこぼれ落ちた子がいじめの対象になる。<br>
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ある男子生徒は、学習障害があるためにタブレットの持ち込みを必要としていたが、別の中学では「一人だけ特例は認められない」と断られたそうだ。<br>
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桜丘中で受け入れ、これを機に「全員持ち込みOK」にした。<br>
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その生徒だけでなく、誰にとっても過ごしやすい環境を目指したからだ。<br>
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―学校は集団生活を送る場で、ルールは必要だとされているが。<br>
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校則ありき、ではない。生徒が自ら考え、判断する力を伸ばすにはどうするか、だ。<br>
 +
どんな髪形や服装をするかは自分で決める。<br>
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帽子をかぶって来る子もいれば、メイクをする子もいた。<br>
 +
チャイムがないから、自ら時間を管理する。授業中に居眠りしても、注意することはない。<br>
 +
短時間の居眠りで頭はスッキリする。<br>
 +
教諭は授業に集中してもらえるよう工夫するようになり、居眠りも減った。<br>
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校則をなくしたもう一つの理由に、生徒に「非認知的能力」を身に付けてほしいという願いがあった。<br>
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社会で活躍するためのコミュニケーション能力や柔軟な発想力など、紙の試験では測れないスキルを指す。<br>
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そのために生徒に対し6つのことを実践した。<br>
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①言うことを否定しない②話を聞く③共感する④触れ合いを積極的に行う⑤能力ではなく努力を褒める⑥行動を強制しない―<br>
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いずれも厳しい校則とは相いれないことだった。<br>
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―生徒はどう変わったか。<br>
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「管理」されることに慣れた子は最初は戸惑うが、自由に思ったことを言わせた。<br>
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「授業がつまらない」でも「こんなの将来役に立たない」でも、とがめない。<br>
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その結果、教諭との信頼関係を作りやすくなったと思う。<br>
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年に数回「ゆうゆうタイム」といって、生徒と教諭が一対一で自由に話せる時間を作ったが、生徒の表情が豊かになったと感じる。<br>
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こうして子ども本来の、自分自身に戻していく。<br>
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自分から進んで勉強しようとする生徒が多くなり、学力も身についた。<br>
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朝8時から、廊下に設けられたハンモックや椅子に座って、それぞれ勉強していた。<br>
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友達に対する考え方も変わったようだ。<br>
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入学当初は他人の言動を気にしてばかりで、教師に「あの子はルール違反では?」と告げ口しに来た生徒もいた。<br>
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しかし、桜丘中ではそれが意味の無いことだと気づくと、「私は私、あの人はあの人」だと自分も、相手も尊重できるようになっていく。<br>
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2、3年生ではいじめは全く無い。<br>
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―全国の中学、高校には、理不尽な校則がたくさんある。<br>
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中高生が不安定な思春期にあることを忘れてはいけない。<br>
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合理的な理由がないルールで縛ると最初は反発する。<br>
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「内申書に響く」などと言われると、生徒は意見を述べるどころか、考えることさえ諦めてしまう。<br>
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ストレスがたまると、勉強にも集中できないだろう。<br>
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学校は厳しい校則を運用する一方、社会で法に触れることが「治外法権」になり、曖昧に対処されがちだ。<br>
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これでは生徒を混乱させる。体罰は暴行、傷害罪で、学校の内も外も同じ法律を適用すべきだ。<br>
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桜丘中でも生徒が窓ガラスを割ったら、故意であれ過失であれ必ず弁償してもらった。<br>
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校則はなくても、社会のルールである法律を守らなければならないという厳しさは、生徒も実感していた。<br>
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日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准した。<br>
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12条に意見表明権を定めており、生徒がルールや学校のことについて自由に意見を述べる機会は保障されなければならないはずだ。<br>
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数年前、桜丘中でも生徒手帳に一部を抜粋して載せた。<br>
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子どもたちに、君たちの権利は認められ、大切にされているんだということを伝え、安心してほしかったからだ。<br>
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信頼とは、そうやってつくられていくと思う。<br>
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×     ×   ×   ×<br>
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さいごう・たかひこ 1954年生まれ。今年3月まで東京都世田谷区立桜丘中校長。<br>
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著書に「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」<br>
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■関連記事はこちら<br>
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ボタンの間から下着の検査「何でここまで?」校則は誰のためにあるのか(1)<br>
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教諭も困惑、制服検査「あれはセクハラ」校則は誰のためにあるのか(2)<br>
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〔2020年12/25(金) 47NEWS〕 <br>
  
 
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目次

世田谷区立桜丘中学校

所在地 東京都世田谷区
TEL
FAX

周辺ニュース

ページ名 世田谷区立桜丘中学校  (  )
「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか
東京都世田谷区立桜丘中の前校長 西郷孝彦さん
「校則なし」を実現した公立中学校がある。東京都世田谷区の区立桜丘中だ。
服装や髪形は自由で、遅刻しても、教諭に大声で怒鳴られることはない。
定期テストやチャイムもない。
全国各地の学校ではいまだ、下着の色指定やツーブロック禁止など理不尽な校則がまかり通る中、桜丘中はどのように校則をなくしていったのか。
前校長の西郷孝彦さん(66)に聞いた。
校則はいったい誰のため?
3回にわたって考える3回目です。(共同通信=小川美沙)
―校則をなくしたきっかけは。
赴任した2010年当時、桜丘中は荒れていた。
服装や髪形に関する決まりがあり、教諭が声を荒らげて生徒を指導することもあったが、子どもたちを上から押さえつけたってうまくはいかないと感じていた。
学校にはさまざまな子どもがいる。「普通の子」なんて存在しない。
こだわりが強い、朝起きられない、制服が着られない、学習障害や発達障害がある…。
こうした個性や特性を考えずに、「靴下は白」「中学生らしい髪形」など合理的な理由がない校則を当てはめると、それがストレスになり、不登校になる。
廊下に設けられたスペースで過ごす桜丘中の生徒たち(2019年、西郷孝彦さん提供)
生徒全員に「学校は楽しい」と感じてもらえるにはどうすべきかを考えると、合理的な理由のある校則は一つもなかった。
それに、校則で「みんな同じ」を押しつけると、枠からこぼれ落ちた子がいじめの対象になる。
ある男子生徒は、学習障害があるためにタブレットの持ち込みを必要としていたが、別の中学では「一人だけ特例は認められない」と断られたそうだ。
桜丘中で受け入れ、これを機に「全員持ち込みOK」にした。
その生徒だけでなく、誰にとっても過ごしやすい環境を目指したからだ。
―学校は集団生活を送る場で、ルールは必要だとされているが。
校則ありき、ではない。生徒が自ら考え、判断する力を伸ばすにはどうするか、だ。
どんな髪形や服装をするかは自分で決める。
帽子をかぶって来る子もいれば、メイクをする子もいた。
チャイムがないから、自ら時間を管理する。授業中に居眠りしても、注意することはない。
短時間の居眠りで頭はスッキリする。
教諭は授業に集中してもらえるよう工夫するようになり、居眠りも減った。
校則をなくしたもう一つの理由に、生徒に「非認知的能力」を身に付けてほしいという願いがあった。
社会で活躍するためのコミュニケーション能力や柔軟な発想力など、紙の試験では測れないスキルを指す。
そのために生徒に対し6つのことを実践した。
①言うことを否定しない②話を聞く③共感する④触れ合いを積極的に行う⑤能力ではなく努力を褒める⑥行動を強制しない―
いずれも厳しい校則とは相いれないことだった。
―生徒はどう変わったか。
「管理」されることに慣れた子は最初は戸惑うが、自由に思ったことを言わせた。
「授業がつまらない」でも「こんなの将来役に立たない」でも、とがめない。
その結果、教諭との信頼関係を作りやすくなったと思う。
年に数回「ゆうゆうタイム」といって、生徒と教諭が一対一で自由に話せる時間を作ったが、生徒の表情が豊かになったと感じる。
こうして子ども本来の、自分自身に戻していく。
自分から進んで勉強しようとする生徒が多くなり、学力も身についた。
朝8時から、廊下に設けられたハンモックや椅子に座って、それぞれ勉強していた。
友達に対する考え方も変わったようだ。
入学当初は他人の言動を気にしてばかりで、教師に「あの子はルール違反では?」と告げ口しに来た生徒もいた。
しかし、桜丘中ではそれが意味の無いことだと気づくと、「私は私、あの人はあの人」だと自分も、相手も尊重できるようになっていく。
2、3年生ではいじめは全く無い。
―全国の中学、高校には、理不尽な校則がたくさんある。
中高生が不安定な思春期にあることを忘れてはいけない。
合理的な理由がないルールで縛ると最初は反発する。
「内申書に響く」などと言われると、生徒は意見を述べるどころか、考えることさえ諦めてしまう。
ストレスがたまると、勉強にも集中できないだろう。
学校は厳しい校則を運用する一方、社会で法に触れることが「治外法権」になり、曖昧に対処されがちだ。
これでは生徒を混乱させる。体罰は暴行、傷害罪で、学校の内も外も同じ法律を適用すべきだ。
桜丘中でも生徒が窓ガラスを割ったら、故意であれ過失であれ必ず弁償してもらった。
校則はなくても、社会のルールである法律を守らなければならないという厳しさは、生徒も実感していた。
日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准した。
12条に意見表明権を定めており、生徒がルールや学校のことについて自由に意見を述べる機会は保障されなければならないはずだ。
数年前、桜丘中でも生徒手帳に一部を抜粋して載せた。
子どもたちに、君たちの権利は認められ、大切にされているんだということを伝え、安心してほしかったからだ。
信頼とは、そうやってつくられていくと思う。
×     ×   ×   ×
さいごう・たかひこ 1954年生まれ。今年3月まで東京都世田谷区立桜丘中校長。
著書に「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」
■関連記事はこちら
ボタンの間から下着の検査「何でここまで?」校則は誰のためにあるのか(1)
教諭も困惑、制服検査「あれはセクハラ」校則は誰のためにあるのか(2)
〔2020年12/25(金) 47NEWS〕 

周辺ニュース

ページ名世田谷区立桜丘中学校、東京都世田谷区 (中学校のニュース、校則のニュース)
尾木ママ「子どもたちが主役」の学校は学力が向上する
会場には幅広い世代が集まり、小・中学生の姿も多かった。なかには地方から駆けつけた人も
校則を全撤廃したことで話題の東京・世田谷区立桜丘中学校。
その改革を実行した同中学校長の西郷孝彦さんの著書『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール 定期テストも制服も、いじめも不登校もない!笑顔あふれる学び舎はこうしてつくられた』も人気となっている。
そんななか、桜丘中学校の保護者有志が教育の第一線に立つ4人によるトークイベントを主催(11月30日)。
キャンセル待ちも出て、約1000人が来場するなか、今後の日本の教育について語り合った。
【講演会登壇者】
◆世田谷区立桜丘中学校長・西郷孝彦さん/養護学校(現:特別支援学校)を経て、都内で理科と数学の教員に。
2010年より現職。常に生徒に寄り添い、「校則なくした中学校長」として知られる。
著書に『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』がある。
◆教育評論家・尾木直樹さん/法政大学名誉教授。中学、高校、大学で計44年間教壇に立つ。
尾木ママの愛称で親しまれ、NHK Eテレ『ウワサの保護者会』などに出演。
◆麻布学園理事長・吉原毅さん/2010年に城南信用金庫理事長に就任し、相談役、顧問(現職)に。
2017年に「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」創設。同年より麻布学園で現職。
◆世田谷区長・保坂展人さん/1996年に衆議院議員初当選。児童虐待防止法の成立(2000年)に携わる。
総務省顧問を経て2011年より現職。教育ジャーナリストでもある。
校則を全撤廃した桜丘中学校の学力は、世田谷区内でトップクラス。特に英語はダントツの成績だ。
「今の社会の問題は、子どもたちの自己肯定感が低いこと。
自由を認めれば、子どもたちは自分を取り戻し、勝手に伸びていきます。
実際、教員の言うことに反発もできる子ほど学力も伸びる」(西郷さん)
尾木さんも同じ見解だ。
「受験勉強的に押し付けなくても、学力は上がります。
実際、締め付け型ではなく、桜丘中のような探求型授業を行う学校の方が、全国的にみても学力を向上させています。
例えば京都市立堀川高等学校。
授業の一環として、自分の好きな課題を3年かけて探求させるのですが、これを続けていたら、当初は6人しか国公立大学に進めなかった学校が、浪人生を含めて毎年30人以上も京都大学に合格するような進学校になった。
“子どもたちが主役”の学校は、学力向上に結びつきます」(尾木さん)
一方で、熱心になるあまり、教育虐待に陥る家庭が増えていることを西郷さんは危惧する。
イベントの司会進行役を務めた世田谷区長の保坂展人さんも声をそろえる。
「教育虐待を児童相談所が理解していない場合も多い。
子どもは親の所有物ではないのに、親が自分の人生のやり直しのように、過度に勉強を強いる。
入試に失敗した場合、子どもの人格を全否定するのも間違っている」(保坂さん)
ユニークで革新的な実業家を多数輩出することでも有名な麻布学園も、『自由闊達・自主自立』が校風。
特に受験を終えた中学1年生のうちはしっかり遊ばせて、子どもの好きなことをさせるそうだ。
「そうでないと、子どもは育ちません。中・高時代に詰め込み教育や管理教育を受けてきた子どもは、自分で判断ができず、情熱もない。
日本の競争力が衰えているのは、自分の頭で考えて行動できる子どもが激減しているからでしょう」(吉原さん)
◆ハーバード大も行う「感性を育む教育」
これから進むべき教育のカタチとは?
「残念なことに、日本は教育に投資する公的支出のGDP(国内総生産)に占める割合がわずか2.9%で、OECD(経済協力開発機構)加盟国中、最下位です。
そのOECDがプロジェクトチームを立ち上げ、これからの教育に必要なことは何かと3年間議論したのですが、結論は“子どもたちの生き延びる力をつけること”でした。
今後は、AI(人工知能)と共存する社会になっていきます。
AIにはできないこと、つまり新しい価値を創造する力こそ、“生き延びる力”ではないでしょうか」(尾木さん)
文部科学省は新しい指導要領で、「主体的・対話的で深い学び」であるアクティブラーニングの重要性を説いている。
「世界では芸術の必要性が見直され、アメリカのハーバード大学は医学部で美術鑑賞を授業に取り入れました。
西郷先生が必要だとおっしゃっている、数字やテストでは計れない非認知的能力をつけようということです」(尾木さん)
「人は本来、“よりよく生きる”という気持ちをもって生まれています。
私たちにできることは、こうあるべきだと子どもを型にはめることではなく、子どもたちが自由に発想できる環境を整えてあげること。これは家庭でも同じです」(西郷さん)
保坂さんは客席に向かって、「学校や自治体が動くかどうかはみなさんの声で決まる」と訴え、こう続けた。
「桜丘中をそのまま真似るということではなく、それぞれの地域で“子どもたちが主役の学校”をつくってほしい。それが私たち大人の役目です」
〔2019年12/25(水) NEWS ポストセブン※女性セブン2020年1月2・9日号〕

周辺ニュース

ページ名世田谷区立桜丘中学校、東京都世田谷区(校則のニュース)
校則全廃中学 増えたのは「議論」、生徒の判断力養われる
力で締め付ける学校教育は、ゆとり教育時代を経て緩和されてきたかに思えた。
ところが昨今の「ブラック校則」という言葉が示すとおり、子どもたちは理不尽な掟に人権を侵され、自分で考える気力をも奪われている。
そんな中、“脱ブラック”へと大きく舵を切った教育現場がある。
11月18日、東京・世田谷区内の公立中学校が、各校のホームページで校則の公開をスタートさせた。
こうした義務教育下での校則の一斉公開は、日本で初めての試みともいわれ、まさに画期的だ。
昨今、「ブラック校則」という言葉が取り沙汰され、毎日のように世間を賑わしている。
きっかけは2017年、大阪府の女子高生が生まれつき茶色い毛髪を黒染めするよう強要されて不登校に追い込まれ、府を提訴したことだった。
校則問題に詳しい教育社会学が専門の名古屋大学大学院准教授・内田良さんが話す。
「この事件以降、あらためて全国の中学・高校で校則について調査してみると、地毛証明書が必要な学校が6~7割もある都道府県があるほか、帰宅後のことにもかかわらず外泊を禁止したりと、明らかに人権を侵害するようなものがありました。
下着の色まで指定する学校も複数あり、ブラック校則は、子どもたちの選択権や自由に考える機会を奪っています」
今年8月には評論家の荻上チキさんらが参加する『ブラック校則をなくそう! プロジェクト』が、現状の調査を求める要望書と6万人超の署名を文部科学省に提出。
また、2018年の大阪府立高校の校則公開に続き、今年10月には岐阜県の教育委員会が、人権侵害の恐れのある校則が、9割を超える県立高校にあったと発表。
移行期間を経て、来年度までにこれらを廃止するとした。
校則の公開は、ブラック校則を抑制する意味で、非常に意義深いと内田さんは言う。
「ブラック校則を報道で取り上げる機会が多いものの、実際の教育現場では、見直しに向けた動きが鈍いのが現状です。
というのも、学校はある種の治外法権的側面がある。
公開することで市民の目に触れ、理不尽なものが淘汰されていくことにつながるでしょう」
世田谷区議会で校則の公開について取り上げられたのは今年6月。
「セーターはOKでもカーディガンはNG」「学年ごとに使えるトイレを指定」「給食中の牛乳はしっかり飲む」──これまで同区立中学校の多くに、なぜ明文化されているのかと首を傾げたくなるような校則があった。
教育委員会は各校に校則の見直しを要請。精選、削除を経て公開に至った。
◆“中学生らしい”という曖昧な表現
では、2016年に校則を全廃した世田谷区立桜丘中学校では、どのようにして校則をなくしていったのだろうか。
著書『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』が話題を集めている現校長の西郷孝彦さん(65才)に話を聞いた。
西郷さんが桜丘中学校に赴任したのは2010年のこと。
女子生徒が紺色の靴下を履いてきて、生活指導主任の教員に注意されるのを目撃したことがあった。
確かに校則には《靴下の色は白とする》とある。なぜ白なのか、その教員に理由を問うと、「汚れてもすぐわかって清潔だから」と言う。
またある時、別の生徒が白いセーターを羽織ってきた。校則には《セーターの色は紺とする》とあり、また生活指導主任の教員は生徒を注意していた。
この2つの出来事に、西郷さんは違和感を覚えた。
「“清潔だから白”というのなら、セーターも白でなければ理屈が合いません。
なのにセーターは、“あまり派手にならないようにという理由で、紺と決めている”という。
そもそも白は派手なのかと疑問を感じました」(西郷さん・以下同)
派手にならないためというのであれば、黒でもグレーでもいいはずだ。
しかし、《セーターの色は紺》という校則があるため、教員は別の色のセーターを着た生徒を、注意せざるを得ないという矛盾が生じていた。
やがて生徒から、「黒やグレーのセーターを認めてほしい」という要望が上がった。
教員が論理的に校則の必要性を説明できない以上、認めない理由はどこにもなかった。
靴下の色指定も見直された。すると今度は、黄色いセーターを着てきた生徒がいた。
生活指導主任の教員は、すかさず生徒を呼び出し注意する。
「派手な色はダメだ。中学生らしくない」
今度はこの言葉に、西郷さんは引っかかった。
「派手とは何か。中学生らしさとは何か。
生活指導主任に尋ねてみましたが、やはり明確な答えは返ってきません。
そもそも、“地味な中学生”とは、“中学生らしい”のでしょうか。この年代の子たちは、他者の視線を意識し始める年齢です。
かっこよくありたい、おしゃれをしたい、というのは、極めて普通の感覚です。
むしろ、“地味な中学生”の方が自分を抑圧していて、“派手な中学生”の方が自然に自分を出そうとしているのではないか。
そう考えると、見た目が派手な中学生の方が“中学生らしい”という結論を導き出すこともできます」
やがて教員同士も議論を始めた。
「校則に書いてあるから」ではなく、何が生徒にとって本当に有益かを考えると、靴下やセーターの校則に裏付けとなる理屈がないことに気づいていく。
もはやこれら服装に関する校則を残しておく意味すら見当たらなくなった。
こうしてセーターの色は、「紺」から「紺、黒、グレー」へ、そして「自由」へと変わっていった。
◆“校則が生徒の登校を阻む”という矛盾
ある時、こだわりが強く、毎日同じトレーナーを着ないと通学できない生徒が入学してきた。
またある時、晴れた日でも長靴でないと学校に来られない生徒もやってきた。室内でも帽子を脱ぎたがらない生徒もいた。
校則で制服着用が義務付けられていると、彼らはトレーナーを脱がなければならないし、長靴も帽子も許されない。
それはつまり、校則や制服が、生徒の登校を阻んでいるのと同じことだ。
学校の秩序を厳守するより、問題を抱える一人ひとりの子どもに寄り添うべきではないか──。西郷さんに迷いはなかった。
「好きなトレーナーを着てきていいよ」「長靴でもいいんだよ」「帽子、授業中にかぶっていてもいいよ」
不登校気味だった彼らは、学校に来るようになった。
面白いことに3人とも、あれほどこだわっていたアイテムを身につけることがなくなっていった。
「もしかしたら、それまでは何か大きな不安を抱えていて、こだわりのアイテムが心の支えになっていたのではないでしょうか。
“長靴で登校していいよ”と言われたことは、“この学校にいていいんだよ”と言われたことと同じ意味を持っていたのかもしれません。
不安がなくなったことで、もう身を守るアイテムが必要なくなったのでしょう」
こうした段階的な見直しを経て、桜丘中学校では2016年に校則を全廃した。
それと反比例して、急に増えたことがある。それは「議論」だ。
校則があれば、生徒に注意するにしても、教員は「校則にあるから」と言えば済んだ。
しかし今では、教員は生徒に対して、なぜそれがダメなのか、一つひとつをきちんと伝える必要がある。
生徒も疑問があれば反論すべきで、なぜそうなのかと教員にぶつけ、とことん議論すればいいと西郷さんは言う。
「よく、“校則という規範がないと、教員によって言うことが違ってくるのではないか”という意見もあります。でも、それでいい。
それこそまさに、“社会”なのですから。社会では、人によって価値観や考え方が違うことは当たり前です。
ではどうするのか。それは、どちらの意見が正しいと思うのか、自分で判断すればいいのです」
校則というマニュアルに依存することで、教員や生徒自身の判断力を失う。
「マニュアルがあるのだから、言われたとおりに従えばいい」と思っているから、例えば時の権力者が「これしか手がない」と断言したら、そういうものかと無批判に信じてしまう。
「正しく生きるため、正しい社会にするためには、日頃から自分で考え、判断力を養うしかありません。
これこそが、未来を見通せない社会を生きていくための資質を育てる一歩です」
◆校則がないと理不尽な社会でやっていけなくなる
校則全廃については、こんな世間の声をよく耳にする。「社会のルールがわからない子どもになるのではないか」「世の中には理不尽なことは多々ある。
校則がない学校で育った生徒は、高校や社会に出たら、つまずいてしまう」
前出・内田さんは、こうした考え方自体を見直すべきだと話す。
「“社会に出たら理不尽が待っているんだから、理不尽な校則を守ることに慣れろ”というのでは、進歩がない。
理不尽な社会なら、そんな状況を変える人材を育てることこそが教育です」(内田さん)
こうした声の裏には、“校則がない=協調性がなく、自分勝手な振る舞いをする生徒になる”という先入観があるのだろう。
だが、同校を複数回取材で訪れたというあるジャーナリストが言う。
「初めて桜丘中学校に行った日、すれ違いざまに、次から次へと生徒の方から挨拶してくれたことに驚きました。
しかもはつらつとしていて、言わされている感がない。質問があって声をかけると、目を見て丁寧に答えてくれます。
最初は“意外に礼儀に関する指導は行き届いているのだな”と思ったのですが、そのうちそれが自主的なものだと気づきました。
ここの生徒は、校則がなく自分たちに判断を委ねられていることに誇りを感じている。
だからこそ、挨拶するのは当然と自分で判断し、実行できるのだと思います」
実はこのジャーナリストも、校則がないことで服装が乱れていたり、はっちゃけた生徒が多いだろうと思っていたそうだ。
だが、期待はいい意味で裏切られた。
「西郷校長はよく、子どもにはあらかじめ“よく生きようというプログラム”がインプットされていて、教員はそれがうまく発動されるように、環境を整えたり、後押しするのが役割だと話していますが、校則や制服がないという取り組みも、もしかしたら“自分で考えてよりよい行動をとる”という環境づくりになっているのではないでしょうか」(ジャーナリスト)
親はどう感じているのか。
高校生になる長女が同校を卒業したある母親が言う。
「“卒業したら、社会とギャップがあって大変でしょう”としょっちゅう聞かれますが、まったく心配するようなことはありません。
まわりと話し合って物事を進める中学校生活を送るうちに、コミュ力(コミュニケーション能力)が磨かれるのでしょう、新しい環境でも適応能力が高いんです。
長女は今、制服も校則もある高校に通っていますが、違和感なく、すぐなじみました」
ほかの保護者ともよくこの手の話になるそうだが、「いつも同様の結論になる」という。
徐々に校則が減っていき、全廃されていく過渡期に兄弟で在籍していた、高校2年生の生徒がこう話してくれた。
「決して勉強が得意ではなかったぼくに、この中学校はいろんな生き方があると教えてくれました。
西郷校長が朝礼でしてくれた、今も忘れられない話があります。
“もし、自分で好きな色鉛筆を12色選んでケースに詰められたとしたら、どんな組み合わせにするか”という内容でした。
黒1色で統一するのもいいし、カラフルな色をそろえるのもいいって。
ぼくはこれからの人生で、自分でいろんな色をそろえていけばいいんだと気づかせてくれました」
 中学時代に朝礼で聞いた校長の話を覚えている人が、どれほどいるだろう。
この少年は今、色鉛筆の話を胸に、難関といわれる芸術大学を目指して研鑽を積んでいる。
現在、桜丘中学校のホームページには校則とは別の、「3つの心得」が掲載されている。
《礼儀を大切にする》《出会いを大切にする》《自分を大切にする》
校則全廃が決まった時、これからの桜丘中学校の拠りどころになるものをと、誰より校則厳守に厳しかった、あの生活指導主任の教員が考え抜いて原案を書いたという。
桜丘中学校の生徒手帳に、変わらず今も刻まれている。
〔2019年11/21(木)NEWS ポストセブン※女性セブン2019年12月5・12日号〕

周辺ニュース

ページ名世田谷区立桜丘中学校、()
校則撤廃中学の校長 生徒同士の関係にあえて波風立てる理由
「紅茶飲む人は?」「はーい」。とある放課後。優雅なティータイムが開催されているのは、なんと中学校の校長室。
応接セットのテーブルには子供たちが用意した温かい紅茶のカップが並び、校長とひとときのティーブレークを楽しんでいた。
制服の子もいれば、ジーンズ姿の子、華やかなワンピースに茶色く染めた髪をきれいにセットした子もいる。
思い思いの服装や髪形ではしゃぎ合う笑い声は、廊下まで響き渡っていた──。
ここは“校則をやめた学校”として注目を集める東京・世田谷区立桜丘中学校。
始業時間以外はチャイムも鳴らなければ定期テストもない。
服装や髪形も自由。さらには教室ではなく廊下で勉強してもいいし、校長室にも出入り自由。
そんな環境にいるのだから、生徒はみな、友達と楽しく学校生活を送っているのだろう。
しかし、そう単純ではないようだ。
教室で楽しそうにおしゃべりする友達を尻目に廊下から見つめている子、仲よし3人組の楽しそうなおしゃべりかと思えば、その中でひたすらうなずいているだけの子、遠くから校長室の様子を見つめているのに、絶対に近づいてはこない子。 
「どんな子であっても、子供同士のいさかいや人間関係のほころびは多少なりとも起こります。
クラスの雰囲気になじめなくて教室に入りづらい生徒もいれば、普段友達のように接していた私にさえ突然距離を置こうとする生徒もいます。
時には生徒同士の殴り合いに発展することだってあります。
だからといって、けんかをなくそうとは思いません。
むしろ人間関係に波風が立つことが、ソーシャルスキルを身につけるには必要不可欠だと考えています」
こう話すのは10年かけて自由で多様な学校をつくりあげた同校の校長・西郷孝彦さん(65才)だ。
しかし今、世間では子供のけんかは減少傾向にある。
◆「空気を読む」ことが重視される
別の中学に勤務して6年になる女性教員(30才)が言う。
「長い教員生活の中で、けんかする生徒を指導したことは、数えるほどしかありません。
特に、殴り合いなんてまず起こらない。ちょっとしたからかいや悪口はあるけれど、表立って生徒同士が言い争うような口げんかすら、ほとんど見かけません」
ITジャーナリストで教育評論家の高橋暁子さんは、その背景にはSNSの発達が関連していると分析する。
「物心ついた頃からネット環境があった10代の若者たちは、ツイッターをはじめとしたSNSで複数のアカウントを持つことが当たり前になっている。
例えば、同じ学校のクラスメートとつながるため本名で登録した“本アカ”や悪口や愚痴など、正面切って発言すると角が立つことをつぶやく“裏アカ”などを使い分け、その場に応じて “相手が心地よく感じる自分”をうまく演じているのです」
教室内だけではなく、ネット上でも「空気を読む」ことが重視されるゆえに相手を不快にさせないよう気を使い、その結果、けんかも起こりづらくなるというのだ。
「一方で、SNSの機能である連絡先を消してしまう『友達削除』や相手からの連絡を遮断する『ブロック』により簡単に人間関係が解消できたり、逆に相手から拒まれたりすることも体感している。
“人間関係はすぐに壊れるもの”という意識も強いのです。
争うことを避けるあまり、本音を言って受け入れてもらえた経験も少ない世代だということもできる」(高橋さん)
加えて、「けんかや衝突はよくない」という世の風潮も、以前に増して高まっている。
インターネットに投稿された《アンパンマンがバイキンマンを拳でやっつけるのは暴力ではないか》というコメントに端を発した「アンパンチ論争」もこの風潮と無関係ではないだろう。
しかし、作者のやなせたかしさんは生前、こんなふうに反論していた。
《けんかもせず、摩擦をおそれ、何もしないで成長する子供はいますか? 
自分が子供のころは、よくチャンバラごっこをやったけど、だからって私は殺人はしませんよ。
大人になっていく過程で、いろいろ思い通りにいかないこともあります。
子供たちにはアンパンマンのように強く、優しく育ってほしいと願っています》
確かに、人間同士の摩擦や衝突に慣れていなければ、社会に出てから上司や部下と考えが対立した時、近所のママ友と意見が合わなかった時、初めて壁にぶつかることになる。
だからこそ、衝突が起きても近くにいる先生が修復の手伝いをしてくれる学校で、それを乗り越え、関係を修復する方法を学んでほしい──西郷さんはそんな思いから、あえて「対立」が生まれるように仕向けることもある。
「衝突したことがない子供が社会に出て人間関係で壁にぶつかると、自分では修復できずそのまま挫折してしまうか、暴走するかどちらかになってしまう可能性が高い。
特に、放っておいたらけんかを経験しないようなおとなしい生徒同士の関係であれば、あえてこちらが波風を立ててみるようなこともあります」(西郷さん・以下同)
つまり、あまりにも平穏すぎる学校生活を送る子供たちの間に一石を投じて波紋を広げるというのだ。
「例えば、仲よしグループのうち1人だけをあえて褒めてみるのです。
そうすると、ほかの子はそれをえこひいきだと感じる。
その瞬間、表面上は仲よしこよしのグループに、初めてすきま風が吹きます」
その時にどう対応するかは、生徒たちの性格や個性を見極めながら変えていくという。
「雰囲気が悪くなってけんかに発展するグループもあれば、褒められた子が“あんなことを言われてもうれしくない。
先生のことは好きじゃないし、本当はイヤ”と私を悪者にすることで、友人との関係を修復しようとするパターンもある。
みんな悩みながら自分なりの戦略を考えるんです」
生徒一人ひとりに人間関係のトラブルを回避できるスキルが身につけば、いじめも起こりづらく、不登校も減少する。
同校では学年が上がり、成長するに従って、いじめは確実に減っていくという。
〔2019年9/7(土)NEWS ポストセブン※女性セブン2019年9月19日号〕

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ページ名世田谷区立桜丘中学校、()
校則がないからこそ、教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー
世田谷区桜丘中学校。私鉄の駅から徒歩10分ほどの住宅街にある。職員室前の廊下には机と椅子がフリースペースとして置かれ、Wi-fiも完備されている。
授業時間だったが、インターネットに接続しながら、話をしたり、自分のペースで勉強をする生徒もいた。
校長室でも、塾の宿題をしている生徒が校長と談笑する姿が見られた。
この学校はチャイムが鳴らない。そして何より、校則がない。
生徒手帳には「礼儀を大切にする」「出会いを大切にする」「自分を大切にする」が「心得」として掲げられ、また、子どもの権利条約の一部が示されている。
なぜ、こうした学校運営が可能なのか。西郷孝彦校長(64)に話を聞いた。
◆◆◆「心得」の3つですべてが指導できます
――生徒手帳には「桜丘中学校の心得」が3つだけ書かれていますが、以前は校則があったのでしょうか?
西郷 以前の生徒手帳には、校則が20ページほど書かれていました。
例えば、「他のクラスの教室に入ってはいけない」とか、「上級生は下級生と話してはいけない」とか。
下着の色を決めている学校だってありますよね。以前の勤務校では、こうした細々とした校則がありました。
校則のことを考え始めたのは、この桜丘中学校に赴任してから、ここ4、5年のことですね。
当初は、校内がいわゆる「荒れた」状態にありました。
見直すことになったときに、本当はいらなかったのですが、何もないと不安に思う人もいる。
校則は最終的には校長判断ですが、「3つくらいにしよう」と提案したときに、生活指導主任が原案を作ってくれました。
この3つですべてが指導できます。先生方はこれをよりどころに指導します。
この学校では制服も自由です。(身体的な性と、自認する性が違う)トランスジェンダーの生徒もそれで救われると思います。
――生徒手帳に子どもの権利条約が記されていますが、珍しいですね。
西郷 日本は法治国家です。この学校に校則はないですが、日本の法律には縛られています。
例えば、校内でも他人のものを勝手に自分のものにすれば、窃盗罪ですよね。誰かを傷つければ傷害罪です。
よく「学校の中は治外法権だ」とか、「学校だから許される」と言われますが、それはやめようと。社会と同じ規則で学校も回っています。
日本は子どもの権利条約に批准しています。だから、法律と同じ。
そう子どもに教えないといけませんし、先生も守る必要があります。
権利条約に掲げられた権利を知ることで、大切にされていることがわかり、子どもは自己肯定感が得られます。
大人でもさまざまな考えがある
――校則はそのままで、運用面で改善する方法もあったと思いますが、どうして校則をなくす方向になったのでしょうか。
西郷 先生方って、校則があると、話し合いにならないんです。「校則があるからダメ」「守るか、守らないか」になってしまいます。
例えば、「靴下は白」と規定があったから、理由を考えずに「校則にあるから」と、そこで指導は終わってしまいます。
一方、生徒に聞かれた時に「汚れたときにわかりやすいから」と説明すれば、そこから話し合いが始まります。
結果、合理的な話し合いを重ねることで信頼関係ができてきます。
スカート丈についても、ルールがなければ、「短すぎるんじゃないか?」「寒くないか?」などと先生たちが言ってくれます。
いろんな考えがあります。大人でもさまざまな考えがある中で、生徒は自分で選択していきます。
そもそも、校則をがんばってなくそうと思ったのは、不登校の子どもたち、発達障害の子どもたちがいたからです。
厳しく指導すると、学校に来なくなります。でも、そうした子だけに「特例」を許すと、他の生徒が「なんで、あの子だけ?」と不満を言います。
だったら、校則でしばりつけることはやめようと。
その頃、別の問題が起きました。文字が読めず、板書が取れず、教科書が読めない生徒がいたのです。
そのため、タブレットを利用可能にしました。音声読み上げソフトで教科書の内容を聞き、板書は写真で撮りました。
試しに、その生徒がいるクラスだけタブレットを持ち込み自由にしました。
最初は2、3人が持ってきましたが、重いし、管理が大変なので、必要のない子は持ってこなくなりました。このやり方を全体に広げたのです。
校則でしばることが染み付いている
――先生を育てることになりますね。
西郷 そうです。ただ、校則が厳しい他の学校から転勤してきた先生は慣れるのが難しいんです。
うちの学校は私服ですが、そうした先生は、私服の生徒を見て「私、無理です」と、1日中イライラしていました(笑)。
何か注意した時に、うちの生徒が「どうしてですか?」と返すことも、先生によっては「生意気だ」と映ってしまいます。
校則でしばることが染み付いていますからね。
上から目線での威圧感がある先生には、「生徒とは対等に話し合いましょう」「馬鹿にするような話し方はやめてほしい」と伝えています。
校則がないということは、正解がないということです。
採用も、できるだけ新規教員をお願いしています。そして、若い先生にはどんどん外へ行って、失敗してもいいから勉強してもらいたいです。
最初の10年で勉強しないと、知識もスキルも落ちていくだけです。僕も含めて、能力主義なんです。
3年目で完全に一人前になるように育てています。
――保護者側からは意見があると思うのですが……。
西郷 いっぺんに校則をなくしたわけではありません。
例えば、靴下の色、セーターの色を自由にしていき、夏は半ズボンでもよいということにしていきました。
そして、生徒会がカジュアルデーを設けました。土曜日は私服と決めたのです。
小学校だって、私服じゃないですか。
徐々に慣れていき、「別にかまわない」という感じになっていきました。違和感がなくなったのです。
ですので、私は、逆に制服のある学校へ行くと違和感を抱きます。
同じ制服を着させて、どうやって生徒を区別しているのか。わからないじゃん、と(笑)。
SNSのトラブルは減りました
――携帯電話やスマホ、SNSに関するルールは?
西郷 保護者からは「スマホを禁止して」という声はありません。
「スマホを買ってほしいと言われて困る」という声はありますが(笑)。
以前は、LINEのグループを作ることは禁止になっていました。
それは悪口を書いたり、グループでハブにしたりすることがあったからです。
でも、禁止してもみんなやりますからね。
LINEの人に「出張授業」にきてもらい、SNSの使い方について話してもらいました。
今でも、許可なく写真をアップしたというくらいのトラブルはあります。
しかし、理由はわかりませんが、SNSのトラブルは減りました。
これまでは悪いことをすると学校の先生に叱られるという発想でしたが、今は、社会から叱られるということがわかってきました。
校内の問題ではすまされない。
それで慎重になっているのかもしれません。
――生徒会との関係はどうでしょうか。
西郷 普通、生徒総会は何も面白くない。つまらないじゃないですか。
そこで何を言っても、最終的に先生が決めるのなら、総会で意見が出るはずもありません。
だから、「ここで決まったことは実現するよ」と言ったんです。
最低でも、決まったことを先生が実現する努力を見せる。すると、どんどん意見が出て盛り上がります。
僕の考えと同じことを言う生徒がいると「シメた!」と思うんですよ(笑)。
最近実現したことは、校庭に芝生を植えたこと。
ただ、野球やサッカーもしますし、植えたのは一部にしました。また、定期テストをなくしました。
うちの学校で学力が落ちたら……
――定期テストをなくして、評価はどうやっているのですか?
西郷 9教科100点満点のテスト勉強は、なかなか一度にできません。
でも、「10点満点」のテストならば、前の日に家で勉強すればできます。
中間や期末テストをまとめてやるのではなく、こまめに小テストをやっていくことにしたのです。
生徒の提案に対して、先生たちは反対すると思っていました。
ところが、先生方が、定期テストではない方法を調べてきました。僕以上のことを先生方は考えていたんです。
うちの学校で学力が落ちたら、日本にとってのチャレンジは終わります。
校則をなくしたら学力は落ちる、という結論になってしまう。
だから先生方も、学力向上には力を入れようと思っています。
実際、学力はかなり上がっていますが、成績のいい子は、偏差値の高い進学校よりも、自由な校風の青山高校だったり、やりたい部活動で高校を選んだりすることが多いですね。
だから、親御さんはどう思っているのか……(笑)。
ただ、そうやって自分で考えることが重要ですし、そういう自由な環境からじゃなければ、日本のスティーブ・ジョブズは生まれてこないと思いますよ。
今後、改善したいのは授業の質です
――部活動のあり方はどうでしょうか?
西郷 水曜日と日曜日の公式練習は禁止しています。そして、週10時間と決めて、平日は2時間、土曜日は3時間にしています。
それ以外に自主練はありますが、強制は禁止しています。そうすることで自主的な意識が芽生えます。
自主練に教師は立ち合いませんが、コーチか保護者が付いているようにします。
部活の顧問をやりたくて教師になった人もいます。そんな人は、土日も部活をやりたい。
しかし、そうでない人からは「ブラック部活」と呼ばれるほどです。いまは教師のなり手がいない時代ですからね。
少しでも働きやすい職場にしなければいけません。
また、教師にも休養が必要です。飲みに行ったり、趣味に時間を費やすことが一人の人間として必要なのです。
――今後の学校運営の課題は?
西郷 改善したいのは授業の質です。一斉に知識を注入する授業は、もういいでしょ? 人間は知識ではAIにかないません。
創造性を教えていかないと、学校だけでなく、日本が潰れてしまいます。だから、受験用の授業と、創造性を育てる授業を分けたいです。
ただ、国が変わらないとなかなかできません。そのため、受験用の授業も必要悪でやっていますが、チャレンジをしていきたいです。
この学校の校長も今年で10年になりましたが、長期間務めたからこそ、できたという部分もあります。
でも、それも今年度で終わりです。その後は、何も考えていません。
2019年6月7日12:50追記:一部表現を修正しました。
〔2019年6/7(金) 渋井 哲也 文春オンライン〕

世田谷の校則ゼロ公立中、授業中に廊下で自習してもOK
桜丘中学校の西郷孝彦校長
いじめが激減、校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベル──。
私立中進学率の高い東京都世田谷区で、「越境してでも行きたい」と人気となっている公立中学校が、世田谷区立桜丘中学校だ。
歴代の校長が「一日でも早く異動したい」と嘆息するほど荒れた同校で、2010年に就任したのが西郷孝彦校長(64才)。
足かけ9年を費やして、自由にして多様な学校をつくり上げた。
窮屈な規則が苦手だという西郷校長は、納得のいかない校則の一つひとつを検証、ついには全廃してしまったという。
◆授業中に教室の外にいてもいい
午前11時、教室では授業の真っ最中。
国語のクラスでは先生の読み上げる百人一首を血眼になって奪取する声が響き、美術のクラスではクラフト模型を組み立てる生徒たちの熱気が廊下まで伝わってくる。
英語の授業時間にバスケットボールの試合や調理実習をすべて英語だけで行うクラスも。
しかし廊下には、そのどれにも属さない生徒の姿が数人。
「教室にいるのが嫌だったり、入りづらかったりした時は、生徒の判断で、廊下で自習して構いません」
職員室前の廊下には机とイスが並び、そこでタブレットを使って動画を見ながら自習したり、英語のテキストを解いたりする生徒たちの姿がある。
その様子を、ヒト型ロボットのペッパーが静かに見守っていた。
校舎1階の理科室では、3Dプリンターを使って両生類の心臓を再現する授業が行われていた。
4人ずつの班に分かれた生徒たちがパソコンのソフトを操って心臓の構造をデザインすると、3Dプリンターがカタカタと音を立て、立方体の模型を作り出す。
テーブルのあちこちから「デザイン通りだ」と歓声があがる。
この授業を担当するのは、理科の長田浩貴先生。2年前、この学校で教師生活をスタートさせたばかりだ。
「大学時代に3Dプリンターの研究をしていて、いつか授業に採り入れたいと考えていたんです。
そう西郷校長に話したら、『やってみなよ、失敗してもいいから』と背中を押してくださったんです。こんなに早く実現するとは思いませんでした」(長田先生)
失敗どころか、新しい試みの成果は上々。
「単に教科書を読むだけではなく、リアルな模型を作ることで、心臓の働きを理解してほしかったんです。
そのうえで、もし心臓模型の構造を改善するとしたらどうすればいいか、自分たちで考えてほしかった。
実際、生徒たちから挙がってきたアイディアは、ぼくの想像以上。発表を聞きながら、鳥肌が立ちました」(長田先生)
なかでも熱心に3Dプリンターを見つめていたのは、2年生のエイジくん(仮名)。このクラスの生徒ではない。
「本当は体育の授業中なんですが、ぼくは集団行動が苦手で、サッカーをするのが怖いんです。
今、この教室の前を通りかかったら、3Dプリンターが見えたので、思わず中に入りました」(エイジくん)
いきなり教室に現れた“珍客”を、ほかの生徒や先生が咎めることはない。
授業が終わりに近づくと、「体育の先生が心配するから、顔だけ出して来いよ」と、長田先生は彼を送り出した。
実はこのエイジくん、文字を書くのが苦手で、タブレットを利用してノートを取りながら授業を受けている。
「機械やコンピューターが好きで、タブレットを使ってもいいと言われてから、学校に来るのが楽しくなりました。
この学校はぼくみたいな子どもも伸ばしてくれるんだなって。
先生との壁? それはない。先生はぼくにとって頼れる存在です」(エイジくん)
彼は自分の居場所を学校で見つけた。
エイジくんに限らず、タブレットやスマホは、どの生徒にも解禁されている。
ところが、読み書きに不自由のない生徒は持ってこなくなった。
不思議と、SNS関連のトラブルも減った。西郷校長が言う。
「生徒は授業がつまらなければ、はっきり“つまらない”と言っていい。
これまで日本の教育では、他人と同じように振る舞えない子どもたちに対して、“みんなと一緒にしなさい”とか“振り返って反省しなさい”という指導ばかりしてきました。
ですがこれからの時代、子どもたちに身につけてほしいのは、誰にも負けない自分の才能の尖った部分、つまり“エッジ”を見つけて磨くこと。
人に取って代わってAIが単純作業を担うようになるであろう今後、他人とは違う“変なやつ”であることこそが、自分自身を輝かせるはずです」
確かに、アップル社の創業者のスティーブ・ジョブズは身なりを気にせず、裸足で資金提供者と交渉したというし、テスラ社のCEO・イーロン・マスクは、会社のいたるところで地べたに寝転がって仮眠するそうだ。
こうした、世間の規範からはみ出した“変わり者”の彼らは、エッジを磨き、世界を驚かせる発明や事業をやってのけた。
2020年には知識や学力のみを問う大学入試センター試験が廃止され、表現力や思考力、判断力が重視される新テストが導入される。
「自分がどの分野に向いているか」を判断し、「自分のやりたいこと」を見つけてその力を活用しようとすることは、まさに新時代を先取りしている。
◆人と違うことに寛容になる
桜丘中は、障害がある生徒や、もともと不登校だった生徒も積極的に受け入れている。
そもそも社会にはいろいろな人がいて、人はそれぞれ違うということが当たり前だとわかれば、自分と違う他人に寛容になれるという考えがあるからだ。
だが、その取り組みも、最初からすんなりスタートできたわけではない。
4年前、インクルーシブ教育(障害のある人とない人が同じ場所で学ぶのみならず、誰もが自由な社会に効果的に参加できる社会の実現をめざす教育)を導入しようとしたところ、「そんなことしたら、勉強ができなくなる」と保護者から猛反対されたことがあった。
ならば、学校全体の成績をあげて納得させようと考えた西郷校長は、わかりやすく実践的な授業を次々、導入していく。
そして冒頭で説明したとおり、今や同校は区でもトップクラスの成績を収めている。
英語教育には特に力をいれ、すべてを英語だけで他の教科の勉強をしたり、作業をするCLIL(Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習の略。
教科やトピックなどの『内容』と『言語』を融合して学ぶ教育方法。
1つのテーマをさまざまな角度で扱いながら、互いが意見などを交換し合い、言語を身につけていくこと)を導入している。
「英語なんて、実はしゃべれなくても社会ではどうにでもなるよね」と笑いながらも、「でもね」と西郷校長はこう続けた。
「海外から翻訳されて日本で発信される出来事やニュースは、発信する側のバイアスがかかっていることもあれば、すべてでもない。
英語がわかるようになると、本当は世界のあちこちでそのニュースがどう発信されているのか、自分で判断できるようになる。
その意味で英語を身につけてもらいたいのです」
〔2019年2/28(木) NEWS ポストセブン※女性セブン2019年3月14日号より一部抜粋〕

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