ICT教育
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− | + | 2020年2月の「一斉休校要請」は記憶に鮮やかだ。<br> | |
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− | + | 子どもたちはもちろん、親のとまどいも大きかった。<br> | |
− | + | 学校から配信される宿題を印刷しながら、現状の学校教育に疑問符を浮かべた親もいたはずだ。<br> | |
− | + | 一方で、新しい学校教育へとかじを切り、学びを継続させた自治体もあった。熊本市だ。<br> | |
− | + | なんと始業式から間もない4月15日時点で、市内の公立学校すべてにおいて、オンラインでの双方向授業を実現した。<br> | |
− | + | 子どもたちは学校から支給された、あるいは家庭にあるタブレット端末を操作し、Zoomで教師や同級生と交流しながら授業を受けたという。<br> | |
− | + | なぜ熊本市にそれができたのか。どうやって実現したのか。<br> | |
− | + | 同市のICT教育(教育の情報化)の舞台裏をつぶさにリポートしているのが本書『教育委員会が本気出したらスゴかった。』だ。<br> | |
− | + | 市長の大西一史氏や教育長である遠藤洋路氏といったキーパーソンを取材しながら、学校ICT化に必要な考え方をまとめている。<br> | |
− | + | 著者は教育ジャーナリストの佐藤明彦氏。<br> | |
− | + | '''ゼロリスク症候群'''<br> | |
− | + | まず押さえておきたいのは、熊本市はコロナ禍より前から、ICT教育に取り組んでいた点だ。<br> | |
− | ''' | + | 2016年4月の熊本地震の影響で、多くの学校が避難所になった。<br> |
− | + | 授業ができず学びが止まるという経験から、大西市長は先進的な教育の必要性を強く感じたという。<br> | |
− | + | すぐさま学校ICT化に40億円という多額の予算を確保した。<br> | |
− | + | 20年4月までに小中学校に「3クラスに1クラス分」のタブレットを配備。ツールだけでなく、教員をサポートするICT支援員を増やすなど、活用を後押しした。<br> | |
− | + | 2019年には、先行導入校において小学校4年生が「ごんぎつね」を朗読してタブレット端末に録音、自分でBGMを付けて発表するといった授業が行われていた。<br> | |
− | + | 端末に「制限を設けない」という方針も特筆すべきことだろう。<br> | |
− | + | これは遠藤教育長が徹底して貫いた。普通、学校のICTツールは授業とは関係ない使い方ができないように、フィルタリングや機能制限を設ける。<br> | |
− | + | だが、それでは教師も生徒もツールの有用性を実感できないのではないか、と遠藤氏は考えた。<br> | |
− | + | 教職員のもつタブレット端末は市販のものと同様、生徒用も最低限のフィルタリングだけとした。<br> | |
− | + | こうした「リスクを恐れない」ことこそ、熊本市がICT化に成功した大きな要因だったと著者は見る。<br> | |
− | + | 昨今、学校や教師は世間からの批判を恐れて畏縮している。<br> | |
− | + | それでは子どもたちの可能性も花開かないのではないか。<br> | |
− | + | 「ゼロリスク症候群」を脱して、教師も子どもも伸び伸び振る舞えばいい――この教育委員会の姿勢が、ICT教育という挑戦への原動力となったのだ。<br> | |
− | + | ICTツールを活用することで、不登校気味の生徒が積極的に授業に参加するようになるなど、これまでにないメリットも生まれているようだ。<br> | |
− | + | 教育に携わる方はもちろん、現状を打破するチャレンジ精神に火をつけたいビジネスパーソンに、お薦めの一冊だ。<br> | |
− | + | 今回の評者=安藤奈々<br> | |
− | + | 情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。<br> | |
− | + | 〔2020年11/6(金) NIKKEI STYLE〕 <br> | |
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2021年1月11日 (月) 23:23時点における最新版
ICT教育
オンライン授業をいち早く実現 熊本の小中学校が乗り越えた「ゼロリスク症候群」
『教育委員会が本気出したらスゴかった。』
2020年2月の「一斉休校要請」は記憶に鮮やかだ。
小学校、中学校、高校、特別支援学校などが閉鎖され、ほぼ機能停止に。
子どもたちはもちろん、親のとまどいも大きかった。
学校から配信される宿題を印刷しながら、現状の学校教育に疑問符を浮かべた親もいたはずだ。
一方で、新しい学校教育へとかじを切り、学びを継続させた自治体もあった。熊本市だ。
なんと始業式から間もない4月15日時点で、市内の公立学校すべてにおいて、オンラインでの双方向授業を実現した。
子どもたちは学校から支給された、あるいは家庭にあるタブレット端末を操作し、Zoomで教師や同級生と交流しながら授業を受けたという。
なぜ熊本市にそれができたのか。どうやって実現したのか。
同市のICT教育(教育の情報化)の舞台裏をつぶさにリポートしているのが本書『教育委員会が本気出したらスゴかった。』だ。
市長の大西一史氏や教育長である遠藤洋路氏といったキーパーソンを取材しながら、学校ICT化に必要な考え方をまとめている。
著者は教育ジャーナリストの佐藤明彦氏。
ゼロリスク症候群
まず押さえておきたいのは、熊本市はコロナ禍より前から、ICT教育に取り組んでいた点だ。
2016年4月の熊本地震の影響で、多くの学校が避難所になった。
授業ができず学びが止まるという経験から、大西市長は先進的な教育の必要性を強く感じたという。
すぐさま学校ICT化に40億円という多額の予算を確保した。
20年4月までに小中学校に「3クラスに1クラス分」のタブレットを配備。ツールだけでなく、教員をサポートするICT支援員を増やすなど、活用を後押しした。
2019年には、先行導入校において小学校4年生が「ごんぎつね」を朗読してタブレット端末に録音、自分でBGMを付けて発表するといった授業が行われていた。
端末に「制限を設けない」という方針も特筆すべきことだろう。
これは遠藤教育長が徹底して貫いた。普通、学校のICTツールは授業とは関係ない使い方ができないように、フィルタリングや機能制限を設ける。
だが、それでは教師も生徒もツールの有用性を実感できないのではないか、と遠藤氏は考えた。
教職員のもつタブレット端末は市販のものと同様、生徒用も最低限のフィルタリングだけとした。
こうした「リスクを恐れない」ことこそ、熊本市がICT化に成功した大きな要因だったと著者は見る。
昨今、学校や教師は世間からの批判を恐れて畏縮している。
それでは子どもたちの可能性も花開かないのではないか。
「ゼロリスク症候群」を脱して、教師も子どもも伸び伸び振る舞えばいい――この教育委員会の姿勢が、ICT教育という挑戦への原動力となったのだ。
ICTツールを活用することで、不登校気味の生徒が積極的に授業に参加するようになるなど、これまでにないメリットも生まれているようだ。
教育に携わる方はもちろん、現状を打破するチャレンジ精神に火をつけたいビジネスパーソンに、お薦めの一冊だ。
今回の評者=安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。
〔2020年11/6(金) NIKKEI STYLE〕