ひきこもり中高年者調査・2018年
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+ | ===[[:Category:周辺ニュース|周辺ニュース]]=== | ||
+ | ページ名[[ひきこもり中高年者調査・2018年]]、(内閣府) <br> | ||
+ | '''内閣府調査の中高年ひきこもり「推計61万人」報告で見えた、人は何歳からでもひきこもる現実'''<br> | ||
+ | '''■やはり多かった「中高年のひきこもり」 きっかけのトップは「退職」'''<br> | ||
+ | 内閣府は29日、2018年12月7日から同24日にかけて実施した、40歳から64歳までの5千人を対象にした「生活状況に関する調査」の報告書のなかで、中高年のひきこもり者の数を推計61.3万人と公表した。<br> | ||
+ | 調査は、層化二段方式で無作為抽出した199市区町村200地点で実施。調査員による訪問留置・回収方法で、有効回答数は3248人(65%)だった。 <br> | ||
+ | このうち、外出の頻度を訪ねた質問で、6ヶ月以上連続して、「自室からほとんど出ない」、「自室からは出るが、家からは出ない」、「近所のコンビニには出かける」、「趣味の用事のときだけ外出する」と回答した「広義のひきこもり群」は、自営業や身体的な病気、専業主婦の一部の状況の人等を除くと、47人。出現率は1.45%で、対象年齢の人口4235万人から推計すると、あわせて61.3万人だった。 <br> | ||
+ | 2015年12月に内閣府が実施した15歳から39歳までを対象とした同種の「若者の生活に関する調査報告」では、同群の推計数は54.1万人だった。<br> | ||
+ | その前回調査からは、3年間のずれがあり、同群の抽出条件もやや変えている。<br> | ||
+ | このため、単純には合算できないものの、内閣府の北風幸一参事官(青少年支援担当)は、「正確さは欠くが、15歳から64歳までの全年齢層を足すと、約115万人。大切なのは、全国で100万人以上の人がひきこもっていることがわかったことだ」と話した。<br> | ||
+ | 39歳までの調査では、ひきこもったきっかけのトップは、「不登校」と「職場になじめなかった」だったが、今回の40歳以上の調査では、「退職」ということがわかった。<br> | ||
+ | 定年退職のほか、なにかの事情で仕事を辞めてから、社会とのつながりがなくなっていった人たちの姿が見えてくる。 <br> | ||
+ | 一部の項目を詳しくみていく。<br> | ||
+ | <性別> 男性が76.6%と、4分の3以上を占めた。<br> | ||
+ | 今回の調査からは、セクシャルマイノリティの人を調査から取りこぼさないために、性別欄に「その他」を設けたが、回答はなかった。 <br> | ||
+ | <年齢> 5歳ごとにみて、40歳から44歳と、60歳から64歳の割合が最も高く、それぞれ25.5%。<br> | ||
+ | 45歳から49歳は12.8%、50から54歳は14.9%とやや小さいが、年代ごとの極端な差はない。 <br> | ||
+ | <家の生計> 主に本人が生計を立てているという回答が最も高く、約3 割にのぼった。<br> | ||
+ | 次いで、「父」、「母」、「配偶者」と続き、「生活保護など」は8.5%、「きょうだい」という回答も6.4%あった。<br> | ||
+ | <通院や入院経験> 複数回答で、「精神的な病気」を挙げた人は、広義のひきこもり群以外では、5.6%だったのに対し、今回対象の広義のひきこもり群では31.9%と多かった。<br> | ||
+ | 一方で、「その他の病気」「あてはまるものはない」と回答した人も多かった。 <br> | ||
+ | <就労状況> 「勤めている」という回答は、正社員、非正規雇用・パート・アルバイトを問わず、なし。<br> | ||
+ | 一方、無職という回答は76.6%だった。<br> | ||
+ | また、「35歳以上での無職」を経験した人は、53.2%にものぼった。<br> | ||
+ | さらに、対象者のほとんどが、正社員を含めて何らかの形で働いた経験があることがわかった。 <br> | ||
+ | <就職> 現在就労していない人に対して就職や進学の希望を訪ねた質問では、「希望していない」という回答は60.9%。<br> | ||
+ | 実際に就職活動をしているのは13%にとどまった。 <br> | ||
+ | <ひきこもり期間> 3年から5年という回答が最も高く、21.3%。7年以上と回答した人が46.7%。 <br> | ||
+ | <初めてひきこもった年齢> 14歳以下と30歳台の割合が低いが、全年齢層にわたっての回答がみられた。<br> | ||
+ | 多い順に、60歳から64歳が17%、25歳から29歳が14.9%、40歳から44歳が12.8%。 <br> | ||
+ | <ひきこもったきっかけ> 複数回答で最も多かったのは、「退職」。<br> | ||
+ | 次いで、「人間関係がうまくいかなかった」や「病気」、「職場になじめなかった」が挙がった。 <br> | ||
+ | <関係機関への相談> 「相談したい」という回答も、「思わない」とする回答も約5割で、約半々の結果となった。<br> | ||
+ | また、複数回答で、「無料で相談できるところ」になら相談したいという回答が多かった一方で、「あてはまるものはない」「どのような機関にも相談したくない」という回答も多かった。<br> | ||
+ | 相談機関先として、「病院・診療所」の回答が最も多かった。<br> | ||
+ | <家族との状況> 「家族は温かい」「家族とはよく話をしている」「家族は仲がよい」「家族から十分愛されている」の4項目の全てで、広義のひきこもり群があてはまるとした回答(複数回答)は、広義のひきこもり群以外の人の半分以下の割合となった。<br> | ||
+ | '''■「どの世代でも、どの世代からでもひきこもりはあり得る」'''<br> | ||
+ | 北風参事官は、当初、中高年のひきこもり調査には反対したという<br> | ||
+ | 「40歳以上のひきこもりが、その下の世代よりも多かったことに驚いている。<br> | ||
+ | そもそも我々のなかでは、『自室にひきこもってひざを抱えている若者』というイメージが強かった。<br> | ||
+ | 『ひきこもり』に『若者』という言葉が付随し、そのイメージに引きずられていた。<br> | ||
+ | けれども、客観的な指標で見たところ、どの世代でも、どの世代からでもひきこもりはあり得る」 <br> | ||
+ | 調査報告の会見で、北風参事官はそう答えたが、内閣府の青少年支援担当が、今回の40歳以上の調査結果を、今後の施策に直接反映できることはそう多くない。<br> | ||
+ | ひきこもりの支援は、長年、子ども・若者育成支援推進法に基づき、青少年の就労支援を主軸とした労働政策寄りの施策が実施されてきた。<br> | ||
+ | しかし、2015年4月に生活困窮者自立支援法が施行され、年令に関係なく、福祉で取り扱えるようになった。<br> | ||
+ | 以来、ひきこもりの支援は、根拠法が2つにわかれたままになっている。2つの法律が想定する当事者像は、当然異なる。<br> | ||
+ | このことは、地方公共団体のひきこもり相談窓口での、混乱を生んでいる。<br> | ||
+ | 若者路線、就労支援路線から切り替えられていない自治体を中心に、中高年層からのひきこもり相談が、断られたり、たらい回しにされたり、若者にしか使えない情報を紹介されたりして、行き場を失う例も少なくない。 <br> | ||
+ | 今回の調査結果では、中高年ひきこもり者の多くが働いた経験がありながら、今は就職を希望していないという現状や、半数の人が現在の状態を関係機関に相談したいとは思っていないことが明らかになった。<br> | ||
+ | また、家族との関係に関する回答からも、家族との温かいつながりを感じられている人は少なく、当事者が、社会だけでなく、家族の中でも孤立しがちな様子がうかがえる。 <br> | ||
+ | '''■「半歩踏み出せる居場所が社会の中にほしい」'''<br> | ||
+ | こうした中高年の当事者の傾向や意向を、さらにあぶり出すような調査内容ではなかったが、地方公共団体は、相談や支援のゴールを、「就労」や「自立」に一律に設定してきた若者支援とは違う方策を本格的に模索する必要があるだろう。 <br> | ||
+ | 例えば、2017年12月に地元の家族会につながるまで、約30年間ひきこもっていた青森県弘前市に住む51歳の男性は、「長くひきこもっていると、『仕事しろ』という言葉には、こわばってしまう。<br> | ||
+ | 家から出て、人と話ができる段階を踏んで、初めて、次が考えられるようになるのでは。<br> | ||
+ | 私のように、長年声を上げられなかった人たちが、半歩踏み出せる居場所が社会の中にほしい」と願う。 <br> | ||
+ | それぞれの地域にいる、当事者や家族が本当にありがたく思う支援はなにか。<br> | ||
+ | それを探るためにも、まず、当事者や家族の声に耳を傾ける必要がある。 <br> | ||
+ | また、今回の中高年調査で、北風参事官が、「ひきこもり=若者」という誤解や偏見を改めたように、「人は、どの世代でも、どの世代からでもひきこもる」という前提を、啓発していく必要がある。<br> | ||
+ | しかし、今回の調査を実施した内閣府が、こうした啓発活動を担うことはないという。<br> | ||
+ | 40歳以上のひきこもり当事者推計61.3万人という数字が、どこまで支援や相談の現場に危機感として届くか。<br>引き続き見守っていきたい。 <br> | ||
+ | (2019年4月8日 一部のタイプミスを修正いたしました)<br> | ||
+ | '''加藤順子 ライター、フォトグラファー、気象予報士'''<br> | ||
+ | 学校安全、防災、対話、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。<br> | ||
+ | 災害が起きても現場に足を運ぶことのなかった気象キャスター時代を省みて、東日本大震災の被災地に通い、営みや試みを追う。<br> | ||
+ | 〔2019年3/29(金) 加藤順子 ライター、フォトグラファー、気象予報士〕 <br> | ||
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'''「中高年引きこもり」調査結果の衝撃、放置された人々の痛ましい声'''<br> | '''「中高年引きこもり」調査結果の衝撃、放置された人々の痛ましい声'''<br> | ||
●「ひきこもり中高年者」の 調査結果が投げかけた波紋<br> | ●「ひきこもり中高年者」の 調査結果が投げかけた波紋<br> |
2019年4月26日 (金) 13:55時点における版
内閣府のひきこもり中高年者調査・2018年
周辺ニュース
ページ名ひきこもり中高年者調査・2018年、(内閣府)
内閣府調査の中高年ひきこもり「推計61万人」報告で見えた、人は何歳からでもひきこもる現実
■やはり多かった「中高年のひきこもり」 きっかけのトップは「退職」
内閣府は29日、2018年12月7日から同24日にかけて実施した、40歳から64歳までの5千人を対象にした「生活状況に関する調査」の報告書のなかで、中高年のひきこもり者の数を推計61.3万人と公表した。
調査は、層化二段方式で無作為抽出した199市区町村200地点で実施。調査員による訪問留置・回収方法で、有効回答数は3248人(65%)だった。
このうち、外出の頻度を訪ねた質問で、6ヶ月以上連続して、「自室からほとんど出ない」、「自室からは出るが、家からは出ない」、「近所のコンビニには出かける」、「趣味の用事のときだけ外出する」と回答した「広義のひきこもり群」は、自営業や身体的な病気、専業主婦の一部の状況の人等を除くと、47人。出現率は1.45%で、対象年齢の人口4235万人から推計すると、あわせて61.3万人だった。
2015年12月に内閣府が実施した15歳から39歳までを対象とした同種の「若者の生活に関する調査報告」では、同群の推計数は54.1万人だった。
その前回調査からは、3年間のずれがあり、同群の抽出条件もやや変えている。
このため、単純には合算できないものの、内閣府の北風幸一参事官(青少年支援担当)は、「正確さは欠くが、15歳から64歳までの全年齢層を足すと、約115万人。大切なのは、全国で100万人以上の人がひきこもっていることがわかったことだ」と話した。
39歳までの調査では、ひきこもったきっかけのトップは、「不登校」と「職場になじめなかった」だったが、今回の40歳以上の調査では、「退職」ということがわかった。
定年退職のほか、なにかの事情で仕事を辞めてから、社会とのつながりがなくなっていった人たちの姿が見えてくる。
一部の項目を詳しくみていく。
<性別> 男性が76.6%と、4分の3以上を占めた。
今回の調査からは、セクシャルマイノリティの人を調査から取りこぼさないために、性別欄に「その他」を設けたが、回答はなかった。
<年齢> 5歳ごとにみて、40歳から44歳と、60歳から64歳の割合が最も高く、それぞれ25.5%。
45歳から49歳は12.8%、50から54歳は14.9%とやや小さいが、年代ごとの極端な差はない。
<家の生計> 主に本人が生計を立てているという回答が最も高く、約3 割にのぼった。
次いで、「父」、「母」、「配偶者」と続き、「生活保護など」は8.5%、「きょうだい」という回答も6.4%あった。
<通院や入院経験> 複数回答で、「精神的な病気」を挙げた人は、広義のひきこもり群以外では、5.6%だったのに対し、今回対象の広義のひきこもり群では31.9%と多かった。
一方で、「その他の病気」「あてはまるものはない」と回答した人も多かった。
<就労状況> 「勤めている」という回答は、正社員、非正規雇用・パート・アルバイトを問わず、なし。
一方、無職という回答は76.6%だった。
また、「35歳以上での無職」を経験した人は、53.2%にものぼった。
さらに、対象者のほとんどが、正社員を含めて何らかの形で働いた経験があることがわかった。
<就職> 現在就労していない人に対して就職や進学の希望を訪ねた質問では、「希望していない」という回答は60.9%。
実際に就職活動をしているのは13%にとどまった。
<ひきこもり期間> 3年から5年という回答が最も高く、21.3%。7年以上と回答した人が46.7%。
<初めてひきこもった年齢> 14歳以下と30歳台の割合が低いが、全年齢層にわたっての回答がみられた。
多い順に、60歳から64歳が17%、25歳から29歳が14.9%、40歳から44歳が12.8%。
<ひきこもったきっかけ> 複数回答で最も多かったのは、「退職」。
次いで、「人間関係がうまくいかなかった」や「病気」、「職場になじめなかった」が挙がった。
<関係機関への相談> 「相談したい」という回答も、「思わない」とする回答も約5割で、約半々の結果となった。
また、複数回答で、「無料で相談できるところ」になら相談したいという回答が多かった一方で、「あてはまるものはない」「どのような機関にも相談したくない」という回答も多かった。
相談機関先として、「病院・診療所」の回答が最も多かった。
<家族との状況> 「家族は温かい」「家族とはよく話をしている」「家族は仲がよい」「家族から十分愛されている」の4項目の全てで、広義のひきこもり群があてはまるとした回答(複数回答)は、広義のひきこもり群以外の人の半分以下の割合となった。
■「どの世代でも、どの世代からでもひきこもりはあり得る」
北風参事官は、当初、中高年のひきこもり調査には反対したという
「40歳以上のひきこもりが、その下の世代よりも多かったことに驚いている。
そもそも我々のなかでは、『自室にひきこもってひざを抱えている若者』というイメージが強かった。
『ひきこもり』に『若者』という言葉が付随し、そのイメージに引きずられていた。
けれども、客観的な指標で見たところ、どの世代でも、どの世代からでもひきこもりはあり得る」
調査報告の会見で、北風参事官はそう答えたが、内閣府の青少年支援担当が、今回の40歳以上の調査結果を、今後の施策に直接反映できることはそう多くない。
ひきこもりの支援は、長年、子ども・若者育成支援推進法に基づき、青少年の就労支援を主軸とした労働政策寄りの施策が実施されてきた。
しかし、2015年4月に生活困窮者自立支援法が施行され、年令に関係なく、福祉で取り扱えるようになった。
以来、ひきこもりの支援は、根拠法が2つにわかれたままになっている。2つの法律が想定する当事者像は、当然異なる。
このことは、地方公共団体のひきこもり相談窓口での、混乱を生んでいる。
若者路線、就労支援路線から切り替えられていない自治体を中心に、中高年層からのひきこもり相談が、断られたり、たらい回しにされたり、若者にしか使えない情報を紹介されたりして、行き場を失う例も少なくない。
今回の調査結果では、中高年ひきこもり者の多くが働いた経験がありながら、今は就職を希望していないという現状や、半数の人が現在の状態を関係機関に相談したいとは思っていないことが明らかになった。
また、家族との関係に関する回答からも、家族との温かいつながりを感じられている人は少なく、当事者が、社会だけでなく、家族の中でも孤立しがちな様子がうかがえる。
■「半歩踏み出せる居場所が社会の中にほしい」
こうした中高年の当事者の傾向や意向を、さらにあぶり出すような調査内容ではなかったが、地方公共団体は、相談や支援のゴールを、「就労」や「自立」に一律に設定してきた若者支援とは違う方策を本格的に模索する必要があるだろう。
例えば、2017年12月に地元の家族会につながるまで、約30年間ひきこもっていた青森県弘前市に住む51歳の男性は、「長くひきこもっていると、『仕事しろ』という言葉には、こわばってしまう。
家から出て、人と話ができる段階を踏んで、初めて、次が考えられるようになるのでは。
私のように、長年声を上げられなかった人たちが、半歩踏み出せる居場所が社会の中にほしい」と願う。
それぞれの地域にいる、当事者や家族が本当にありがたく思う支援はなにか。
それを探るためにも、まず、当事者や家族の声に耳を傾ける必要がある。
また、今回の中高年調査で、北風参事官が、「ひきこもり=若者」という誤解や偏見を改めたように、「人は、どの世代でも、どの世代からでもひきこもる」という前提を、啓発していく必要がある。
しかし、今回の調査を実施した内閣府が、こうした啓発活動を担うことはないという。
40歳以上のひきこもり当事者推計61.3万人という数字が、どこまで支援や相談の現場に危機感として届くか。
引き続き見守っていきたい。
(2019年4月8日 一部のタイプミスを修正いたしました)
加藤順子 ライター、フォトグラファー、気象予報士
学校安全、防災、対話、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。
災害が起きても現場に足を運ぶことのなかった気象キャスター時代を省みて、東日本大震災の被災地に通い、営みや試みを追う。
〔2019年3/29(金) 加藤順子 ライター、フォトグラファー、気象予報士〕
「中高年引きこもり」調査結果の衝撃、放置された人々の痛ましい声
●「ひきこもり中高年者」の 調査結果が投げかけた波紋
国を挙げての新元号フィーバーにいくぶん覆われてしまった観があるものの、内閣府が3月29日に公表した、40~64歳の「ひきこもり中高年者」の数が推計約61万3000人に上ったという調査結果は話題を呼んだ。
厚労相が「新しい社会的問題だ」との見解を示すなど、その波紋が広がっている。
共同通信によると、根本匠厚生労働相は同日の会見で、内閣府の調査結果について「大人の引きこもりは新しい社会的問題だ。
様々な検討、分析を加えて適切に対応していくべき課題だ」と話したという。
さらに4月2日の会見でも、こうした「中高年ひきこもり」者が直面している課題に対し、根本厚労相は「1人1人が尊重される社会の実現が重要。『8050』世帯も含め、対応していく」などと、これからの政府としての方針を示し、国の「引きこもり支援」の在り方が新たなフェーズに入ったことを印象付けた。
確かに、引きこもりする本人と家族が長期高齢化している現実を「社会として新しく認識した」と言われれば、その通りだろう。
そもそも「引きこもり」という状態を示す言葉自体、精神疾患や障害などの世界と比べてもまだ歴史の新しい概念だ。
しかし、40歳以上の「大人のひきこもり」が新しい社会問題なのかと言われれば、決してそんなことはない。
引きこもる人たちの中核層が長期高齢化している実態については、多くの引きこもる当事者や家族、現場を知る専門家たちが、ずっと以前から指摘し続けてきていたことだし、各地の自治体の調査結果でもすでに明らかになっていたことだ。
蛇足ながら、筆者の当連載も2009年に開始以来、10年近く続いている。
にもかかわらず、40歳以上の引きこもり当事者やその家族の相談の声は、制度の狭間に取り残されたまま、長年放置されてきた問題であり、こうして内閣府が実態調査に漕ぎ着けるまでに、何年もの時間がかかった。
80代の高齢の親が収入のない50代の子の生活を支える世帯が、地域に数多く潜在化している現実を目の当たりにした大阪府豊中市社会福祉協議会福祉推進室長で、CSW(コミュニティソーシャルワーカー)の勝部麗子さんは、8050に近づく世帯も含めて「8050(はちまるごーまる)問題」とネーミングした。
こうした8050世帯の中には、持ち家などで生活に問題がないように見えても、子が親の年金を当てにして貧困状態に陥りながら、悩みを誰にも相談できずに家族全体が孤立しているケースも少なくない。
●全てのケアマネジャーが把握 「8050問題」の深刻な実態
最近、筆者は役所の福祉部署や社会福祉協議会などから、職員や支援者、地域の民生委員向け研修の講師を依頼される機会が増えた。
先月、ある自治体の高齢者支援課に呼ばれて、地域包括支援センターのケアマネジャー向け研修会の講師を務めたとき、自分が担当している高齢者の中に「8050問題」に該当する世帯を把握しているかどうかを尋ねたところ、ケアマネジャーのほぼ全員が手を挙げた。
地域包括支援センターは、高齢者の介護などの相談や訪問サービスを担う施設であり、引きこもり支援は本来の仕事ではない。
そうした現場でよく聞かれるのは、「介護している高齢者の家に引きこもる子の存在を知っても、どこに繋げればいいのかがわからない」「どういう支援をすればいいのか知りたい」といった声だ。
「本人や家族に、どうアプローチすればいいのかわからない」「専門のスタッフがいない」「人手が足りない」という現場の声は、生活支援の相談窓口や福祉・保健の部署からも聞こえてくる。
今年3月に公表された厚労省委託事業の「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の保健所調査によると、回答した保健所の45%が「支援の情報に乏しい」、42%が「家庭訪問の余裕がない」と答えた。
国から「ひきこもり地域支援センター」を受託している都道府県・政令指定都市などの相談窓口ですら、本来、引きこもり支援の担当とされているにもかかわらず、若者の「就労」「修学」を目的としている青少年部署が担当していて、「40歳以上の相談については他の適切な機関に紹介している」だけという、お寒い実情の自治体もある。
同じKHJ家族会の調査によれば、引きこもり支援担当窓口と位置付けられている、全国の「ひきこもり地域支援センター」と基礎自治体の「生活困窮者自立支援窓口」の半数近い48%の機関が「ひきこもり相談対応や訪問スキルを持った職員・スタッフがいない」、半数を超える56%の機関が「ひきこもり世帯数も未知数で、家族会の必要性があるかわからない」と回答。
孤立した本人や家族が、せっかく勇気を出して相談の声を挙げても支援につながらず、絶望して諦めざるを得なくなる現実が、全国3ヵ所で開かれたKHJ主催のシンポジウムでも報告されている。
社会が「大人の引きこもり問題」を新たに認識する以前に、そもそも社会には40歳以上の当事者やその家族の存在が「見えていなかった」ということであり、「見ていなかった」だけのことだろう。
もっと言えば、本当は彼らの存在が見えていたのに「見なかったことにしていた」という話なのではないか。
相談の行き場を失った本人や家族たちは、支援の枠組みから取りこぼされ、長い間、放置されてきた。
これだけの数の人たちが行き場もなく高齢化させられている、その責任は誰にあるのか。調査を行ったから終わりではなく、8050問題が顕在化する事態に至った社会的な背景や、従来の支援制度が現実に即していたのかなど、当事者や家族にしっかりとヒアリングした上で、検証と総括も必要だろう。
●40歳以上でひきこもった人が 6割に上るという現実
今回の調査で興味深いのは、「40歳以上になってからひきこもった」と回答した人が57%に上った点だ。
また、ひきこもった理由も「退職したこと」を挙げた人の数がもっとも多く、「人間関係、「病気」「職場になじめず」が続いた。
支援の在り方についての自由記述の中にも、「40代でも再スタートできる仕組みをつくってほしい」「在宅でできる仕事の紹介の充実」などを望む声があった.
これは「引きこもり」という心の特性が、従来言われてきた「ひきこもりは不登校の延長」「若者特有の問題」という捉え方ではなく、「社会に適合させる」目的の訓練主体のプログラムでは馴染まないことを意味している。
むしろ、社会の側にある職場環境の不安定な待遇、ハラスメント、いじめといった「働きづらさ」の改善に目を向け、一旦離脱しても何度でもやり直せるような雇用制度につくり直さなければいけない。
また、「ふだん悩み事を誰かに相談したいと思わない」人は43%と、助けを求められずに引きこもらざるを得なくなる心の特性が示された格好だ。
一方で「関係機関に相談したいと思いますか」の問いに、「相談したい」と答えた人は47%と半数近くに上るなど、いずれも39歳以下の若者層の割合より高かった。
「どのような機関なら相談したいか?」という本人への設問に対しては、「無料で相談できる」「あてはまるものはない」が並んで多く、「どのような機関にも相談したくない」「親身に聴いてくれる」が続いた。
自由記述でも、「偏見を取り除くのが大切」「公的機関としては“外出できない人”の周囲を助けるアドバイスや支援があったほうがよい」「外で働けない人たちに報酬付きでやってもらう仕組みができれば」「何かのきっかけで、イキイキする人には、きっかけになるような場所を」といった声が寄せられた。
「引きこもり」とは、人との交わりを避ける場所でしか生きられなくさせられている状態であり、その状況や背景は1人1人それぞれ違って、一律ではない。
そんな中で、『メディアが描いた引きこもり像とは違うから』と誤解を受けやすいのは、就労しても長続きせずに引きこもる行為を繰り返す「グレーゾーン」のタイプであり、実はボリューム層だ。
●社会に繋がろうと頑張るほど 絶望が積み重なっていく
まったく働けずに引きこもっていた人に比べて、こうして社会につながろうとして頑張ってきた人ほど、絶望が積み重なっていく。
自分の心身を騙して頑張ろうとするのは、自らの意思というよりも、周りのバイアスに追い詰められ、働かなければいけないと思わされている証左でもある。
今は課題を抱えていても、身近に理解者が1人でもいいから傍にいて守られていれば、生活や心身面で困ったときに相談することもできる。
これからは、雇用されることが前提でつくられた従来の制度設計を見直し、1人1人が自分らしく生きていけるための仕組みづくりを構築ていかなければいけない。
そのためには行政の支援の施策づくりに、まず家族や当事者を交えた協議の場を設ける必要がある。
Otonahiki@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)
〔2019年4/5(金) 池上正樹 ダイヤモンド・オンライン〕