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{{topicpath | [[メインページ]] > [[:About Us/不登校情報センター|About Us/不登校情報センター]] > [[:Category:支援者・講師等プロフィール|支援者・講師等プロフィール]] > [[:Category:不登校情報センター・五十田猛・論文とエッセイ|論文とエッセイ・五十田猛]]　> {{PAGENAME}} }} ==引きこもりから動き出す条件づくり== ====（１）引きこもりから動き出した実例２つ==== 12月の親の会で話したところから始めましょう。　<br> 「安定的に」引きこもっていて、親の方から何をするにも糸口が見当たらなくなっている。<br> どうすればいいのかという打開策です。<br> 「引きこもりから動き出す3つの条件」では、それを実例を参考に提示してみました。<br> 私がきいたことのある「安定的に」引きこもっていて人が、どういうきっかけで動き始めたのかの実例をやや一般化したものです。<br> この文章を書いた2006年11月の中旬以降、それ以外の実例としてどんなことがあったのかを思い出そうとしたり、周囲の人にきいていきました。<br> * 「家計の様子がわかるように、預金通帳を見せる」というのを聞きました。<br> 見せ方によっては“早く出て働きなさい”という無言の圧力であったり、叱責になりかねませんから、見せ方にしても気づかいが必要でしょう。<br> 「それって結構きついですよね」というある経験者の声が返ってきました。<br> * 「親があきらめたのかあんまりあれこれ言わなくなった。そうしたらなんだか楽になって動きやすくなった」という意見をきいたことも思い出しました。<br> 私なりにこの言葉にもうなづける内容があります。<br> たぶん自分の思いを窮屈に抑え、親の意向がどこにあるのかを気にしていて動けなくなった人が気分的に開放されたことに関係しています。<br> はじめから子どもの状態に、無関心であるとか「関係ないもの」としていた親が、子どもが長期の引きこもりになったのを機にあれこれ言い始めたタイプのような気がします。<br> ですから親の会に参加されるタイプの人たちの中では、比較的該当する要素は少ないように思います。<br> 私が追加して話した実例は上のようなものです。<br> ====（２）20歳の年金開始と30歳の限度==== 親の会の席上では、少し違うものが話されました。<br> 「子どもが20歳になったところで年金を支払うように案内がきました。<br> これをどうしたものか考えている」という趣旨です。<br> 年金に関する対処はいろいろあります。<br> 子どもには告げないで親が支払っている、子どもには伝えて親が支払っている。<br> 子どもには伝えているが親が代わりに支払ってはいない。<br> 支払えないのはやむをえないができれば親が支払うべきかどうか迷っている・・・などです。<br> 「子どもには伝える」部分では、子どもの精神状態の程度によっては躊躇することもありますが、基本的にはそうした方がよいと考えます。<br> これは前記の「家計状況を預金通帳で見せる」のと似たものだと思います。<br> 躊躇するのは、それによって無力感やダメ意識が極端に強まり、絶望する程度の受けとめ力の弱いときです。<br> ただこれも「そうしたら引きこもりから動き出しますか」といわれても、多くはそこまでに至るものとは思えません。<br> 「引きこもりから動き出す３つの条件」に照らしていえば、<br> １. 親や家族にとってさけられない事態であり、少なくとも不幸なこととは言い難い。<br> ２. 生存本能をよびさますかどうかは個人差が大きく一般的にはそこまでのものではないけれども、危機感を感じていく可能性をもっている。<br> ３. 作為性はない―むしろ「伝えない」ことに作為というか配慮が働くことになる。 <br> そう評価できるでしょう。<br> 「20歳になったための年金の案内」の事例は、引きこもりから動き出したという実例ではありません。<br> そこに接近する事例です。<br> 年齢に関係するより一般的なことがあります。<br> 「30歳」です。<br> 30歳は「それまでには何とかしたい」と念じている年齢・時間の限度になっている人が相当にいます。<br> 人によってはそれが「25歳」であったり、十代の人では「18歳には」「20歳までには」という年齢（時間）の限度として意識されています。<br> しかし「30歳」を代表としてこの説明をしましょう。<br> 「30歳までには」というのは、心の中の“危機感”の抑制された不断の表れのように思います。<br> 思い起こせば、不登校情報センターに引きこもり経験者たちが集まり、初めて同じ体験者同士で話しあったのは30歳を意識した人たちでした。<br> 「このままでは社会に入れなくなる」という不安感と、それが30歳が近づいている人の“危機感”によるものでした。<br> それがフリースペース「人生模索の会」のスタートであったし、そのなかから「30歳前後の人の会」が生まれた基本的な要因でした。<br> 心の焦りはあるものの、それを周囲に向かって思いっきり発散することの少ない人たちです。<br> 家族の何げない一言や行動がこの焦りを刺激することはあっても大部分は一時的現象で終わっています。<br> ====（３）誕生日、新年…家庭内の「ミニイベント」の効用==== この抑制された不断な不安感、危機感を周囲にいる家族が生かす方法はないでしょうか。<br> 私はそれを生かす一つの方法に毎年の誕生日をそれなりに祝うことだと思います。<br> 30歳の誕生日だけでなく毎年の誕生日です。<br> 当人が場違いに感じて避けたがる人もいるはずですから可能な範囲です。<br> だから当人だけを祝うというのではなく家族全員の誕生日を祝うとか、30歳だけでなく毎年祝うという形にした方がいいわけです。<br> 不登校情報センターにいて、私はぼんやりですから誕生日にそれほどのものがあるとは思わなかったのですが、この誕生日を当事者は思いのほか意識しています。<br> たぶんそれは年齢（時間）の限度を意識している、自分の存在を確かめている、それも自分一人で納得するのではなく、周囲からも認めてもらいたいという気持ちがあるからのように思います。<br> 誕生日をこのように祝うようになれば「引きこもりから動きだしていくのか」と問われれば、私には「確実にそうなる」という答えはできません。<br> それは当人の時間限度を不自然ではなく意識させていく方法であり、親にも家族にも比較的やりやすい方法になると思えるからです。<br> 「引きこもりから動き出す3つの条件」にも合った方法だと思います。<br> 一つの提案としても考えていただきたいのです。<br> 誕生日の代わりに、新年というのもそれに準じるかもしれません。<br> 要するに日々淡々とすぎていく日常にアクセントをつける、家族内にミニイベント（通過儀礼）を設けることといってもいいでしょう。<br> ====（４）五十田猛の『自由記述法（返信型）』==== 『ひきコミ』第29号（2006年2月号）に「五十田猛の『自由記述法（返信型）』というのを載せました。<br> その後もいくつかの機会にこの用紙を送っています。<br> その結果、十人ぐらいの人から手紙をもらいました。<br> そのなかで今秋に入ってから2人の男性（20代後半と30代前半）からの手紙（？）が気になります。<br> （？）をつけたのは、それが手紙なのかどうか迷うからです。<br> 私は「自由記述法」を提案し、料金（3,000円）をいただいていますし、それへの返事を出すのには何の苦痛もないのですが、スタンスにとまどうことはあります。<br> 今回の問題の所在を考える材料にもなりそうです。<br> なぜ手紙に（？）をつけたくなるのか。<br> そこには私への問いかけというものがなく、その人の「独白」といえる日常が書かれているだけだからです。<br> 「自由記述法」では手紙の形を求めているわけではなく、たしかにこれでよかったのです。<br> 私の方で相談めいた内容がくると勝手に想像していたのです。<br> 「独白」自体も2人ともレポート用紙で1～2枚のものです。<br> 散漫に書いているのでもありませんが、心のうちが詳しく描かれているわけではありません。<br> 受けとった私はそれを読み、それに何らかの返事を書こうとするのです。<br> そうすると“この私の日常のなかに現在をどのように生き、将来に向けてどんな材料があるのか、取り出して示してみてくれませんか”という呼びかけが暗黙のうちに潜んでいる気がしてくるのです。<br> いや実際にそういうスタンスでないと、この「独白」への返事を書く方向性がみつからないのです。<br> 　 このような手紙（独白）のなかに、私がここだという点を見つけて、「こうすればいい」式の返事を書くのは難しいものです。<br> 自分なりの感想、できれば自分の失敗談を語れるのがいいと思います。<br> その内容にあった失敗談がいいのですが、多少は見当違いの失敗談になるはずです。<br> いま私はそういうものに四苦八苦しています。<br> ====（５）不安を抱えたまま何かをしなくてはならないと思いつつ…==== 私はこのような手紙（独白）を受けとったとき、“顔はこちらを向け、後さずりしながら近づいてくる”というイメージしがたい不思議な感覚にとらわれます。<br> この感覚は実は電話を受けとったときや、面談になったときにも、ときどき感じることです。<br> たぶん周囲の状況を細かく点検し安全を確かめながらいつでも退くことができる姿勢で手足を、言葉を出しているのでないでしょうか。<br> それはその人にとっての最大限の前向きの表現のように思います。 自己保持を確保しながら、つかみがたい何かを求め、おそらく何かをさがし出すのを手伝ってほしいと小さな芽をだしているのです。<br> 私はさし当たりそのように考えて、手紙（独白）への回答を考えることにしています。<br> 安定的な引きこもり生活をしている人に対しても同様なスタンスになるのではないでしょうか。<br> 少し先に進んだところでの答えはわかります。<br> 「信頼して話し合える人」であり、さらにその先には「安心して話し合える友人」となるでしょう。<br> しかし、それ以前の、表現の難しい時期があります。<br> 「後さずりしながら近づいてくる」人を受けとめるのはその時期の感覚なのです。<br> 私の想像のなかでは、安定して引きこもり生活をしている人とは、インターネットのチャットや掲示板を見ている人がこのタイプだと思いますが、どうでしょうか。<br> そこに安定的にいるように見えながら、不安を抱えたまま何かをしなくてはならないと思いつつ何もできないでいる。<br> そこにインターネットが時間的な居場所を提供しているような気がするのです。<br> 「自由記述法（返信型）」として私が提案したのは、その状態にうすく着色した程度のことではないかと思います。<br> それは不確かなことですけれでも、私に対してピンセットでならつかめるかもしれない手がかりを与えているような気がしています。<br> [[Category:不登校情報センター・五十田猛・論文とエッセイ|2007年01月]]

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