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{{topicpath | [[メインページ]] > [[:About Us/不登校情報センター|About Us/不登校情報センター]] > [[:Category:支援者・講師等プロフィール|支援者・講師等プロフィール]] > [[:Category:不登校情報センター・五十田猛・論文とエッセイ|論文とエッセイ・五十田猛]]　> {{PAGENAME}} }} ==攻撃的でもなく理解しているのでもない== 〔＊2005年の6－7月ごろ書いた未発表の手稿のメモが6点見つかりました。<br> 書いた順番は必ずしも明確ではありませんが重複している部分、独立した部分、表現の微妙な違いがあり、一つにまとめることができません。<br> これらを一体作とし番号「その１～その6」として掲載します。<br> 「攻撃的でもなく理解しているのでもない」は「その１」原稿とします。<br> 「その１」の執筆の時期は記載なし。「余話（脱線）の多いエッセイ」「攻撃的でもなく好意的でもなく」という後日の見出し案の書き込みがある。Ｂ５メモ用紙9枚。書いた時期は2005年7月ころ。<br> 掲載にあたり手稿による読めない文字の補筆、表現の点検と訂正をしました。原文の98%以上は維持しています。<br> タイトル「攻撃的でもなく理解しているのでもない」は掲載時につけたものです。小見出しは原文にあり〕<br> ===指示と依存=== あるときの電話はこうだった。<br> 「引きこもりに対して妙に好意的というか、非難がましいことをいわない人がいたんですよ。<br>でも“それは心が弱いだけなんですよ”とか“時間がたてば立派に社会に入って働けるようになるんですよ”とか、引きこもりのことなんか本当はちっともわかっていないんですよ。<br>こっちとしては、その説明をするのは難しいし、かといって攻撃してくるタイプとは違うので、スタンスがとりづらくて……。<br>どうすればいいんでしょうね」<br> 理解者とはいいがたいが、攻撃者ともいいがたい、このような中間的な人に対して、どう対処していけばいいのでしょうか。<br> これは一般的には難しいものかもしれません。<br> とくに引きこもりを体験したようなタイプの人には難しいように思います。<br> なぜでしょうか。<br> またこういう例もあります。<br> 引きこもり経験者だけで数人ほどが集まっての会議はなかなか成り立ちません。<br> だれかの意見や提案に対して、建設的な意見や提案で補強しながら、協同してより充実した計画をつくるとか、問題点を浮き彫りにしてそれへの代案をつくっていくという方法もなかなかできません。<br> こういう方法は日本人にはまだ全体として未熟な感じがします。<br> 引きこもりの人たちのなかではそれが特に顕著ではないかと思うほどです。<br> それは人が個人としての自立を基本的に達成していないということもありますが、引きこもり経験者の多くは、より直接的に、「指示と依存」の両極以外の経験が少ないのではないかと思えます。<br> 攻撃者と理解者以外の中間の人への対応がとりづらいのも、その一種であると解釈できます。<br> 指示的に意志を伝えたり、依存的に意志を受け取ることに流されやすいのもこの一部であると解釈できます。<br> 問題は中間です。<br> 理解者でなければ攻撃者でもない――現実には圧倒的多数と推定される人々がそうだと思いますが、その人たちへの対応とは何でしょうか。<br> 指示的でもなく依存的でもない意思表示を伝える力とは何でしょうか。<br> この力は社会性の重要な内容です。<br> ===指示的言葉と依存的対応=== 人間としての成育発達の過程で、自分を尊重された経験の少ない人は、指示的言葉で働かされるか、依存的な対応で意志伝達する道をとるように迫られてきたことが多いのです。<br> ほとんどそれしかなかったという人にもときどき出会います。<br> ややオーバーな表現をしますと、これは支配するのでなければ従属するしかないという二者択一の環境で、従属を選ぶだけにおかれたのと同じです。<br> 自分が尊重され、自分の意志、感情あるいは力量を問われる、自らそれを確かめていくことを通して決定し、実行していった経験が少ないか、きわめて限られた経験しかしていないのです。<br> これが引きこもり経験者の一面です。<br> このように自分の意志、感情、力量が問われるなかでものごとを決定したり、表現したりする経験は、自分の役割を認められるだけでなく、他人に対しても同様の態度をとることを育て、その感覚を身につけていきます。<br> 他人を尊重することができないのは、基本的部分で自分を尊重されてこなかったことの裏返しの表われなのです。<br> このような経験がないと、多くの人は指示命令的な仕方で事を運ぼうとします。<br> 強引であったり、相手の意志や力量や感情を生かすことができず、それらが見えるとどうしていいのかわからなくなったります。<br> 他者の感情表現をとるのに、とりわけ熟達している引きこもり系の人にとっては、結局、動くに動けなくなるのはそのためです。<br> 引きこもり経験者はおおまかに言えば、このような自分を尊重されなかった人であるともいえます。<br> それらが、社会性のある一つの意志決定の場に表れる様子は、民主主義の不十分さとして表われます。<br> 民主主義とは多数決原理に解消されるのではありません。<br> その集団や社会を構成する各人が、自分の意志、感情、力量などを量りながら意思表明できることが前提にないと多数決原理は、民主主義的ではありません。<br> 前提が反民主主義的なのです。<br> その結果が多数決で決められても結局は民主主義とはいえないものです。<br> ===社会的価値の伝達の役割と限界=== 社会性を身につけられなかった点に注目してその背景を考えてみましょう。<br> 日常的には、指示命令的環境の中で生育があったこと、自分の感情や気分や意志を大切にされてこなかった発達過程につみ重なります。<br> 社会性を身につけることの一面・前提は、自分が人間として尊重されること、意志、感情、気分、力量を尊重され、その意思表示を受け入れられる過程を経験することが不可欠である、と思います。<br> この点から私は特に、失敗経験あるいは危険の可能性への接近に考えが及びます。<br> ここは話の本筋から脱線します。<br> というのは、成育過程のおける親の先回りやレールを乗せる方式は失敗の回避と安全第一、親が自分なりにつけた社会的規範（それはしばしば一面的で、固定的、思い込みによる世間体というものに左右される）の範囲内で、その範囲内に向かうように仕向けるものになっています。<br> 親はほとんど無意識、無自覚にそのように考え行動してきました。<br> それはいわば“時代の精神”とでもいうべきものなのです。 その一方で、それは子どもが本来もっている人間としての自然な可能性を伸ばそうとする意識を欠いています。<br> これは、東洋の、特に儒教的文化圏の特徴なのかもしれません。<br> 亀鑑というべきものに人間を当てはめて育てようとする指向です。<br> 私は教科書というのが、この儒教的文化圏では特に大きな精神的心理的な意味を占めると思いますが、そこに示されていることは理想的な目標である、それが正しいことであるとされやすい点になると思います。<br> 相対化されるよりも絶対化される傾向にあることです。<br> 「教科書どおり」というのは、肯定的評価になっています。<br> 実は教科書というのは亀鑑という意味内容の現代的使用語でしょう。<br> 教科書内容を相対化して受けとめ、それも教材・教具の一つとして位置づける余裕が弱くなるのは、この精神文化性によるものだと思います。<br> この教科書どおりを親は子どもに求めるのです。<br> それはある大事な価値観あるいは知識を子どもに教え込むことにつながります。<br> そういう役割が一般的に無用というわけではありません。<br> しかし主要ではなく二次的、派生的な役割である点の認識・理解が欠けています。<br> ===個性を尊重=== 一次的に重要なのは、子ども（人間）が本来もっている素材をいかに伸ばしていくのかという点です。<br> それは個性の尊重ということでもあります。<br> 一見、教科書的な基準からみると外れていても何ら支障はないのです。<br> たとえば学力が低いというのも、社会生活に必要な基礎的な力があり、それとは別の力が発揮できれば人間社会で十分に通用するという認識が弱くなるのです。<br> 学力（というよりも学歴）を求め、それを最高の基準として人間を判断していく風潮にまき込まれ、自らもその風潮の代弁者になっていくのは、人間の総合的な評価の力が弱く、学力（または学歴）による偏った評価しかできないからです。<br> このような環境――家族・家庭だけでなく、学校や友人関係などを含む生育過程のあちこち――で育った子どもは、一方ではそのような価値観をもつ人間に育ちやすく、他方ではそれについていけずに苦しんでいる人を生み出しています。<br> ついていけないでいる人の中には、別の大切なものを見つけ出し、それにつき進む人がいます。<br> その一方ではそれを挫折体験にし、自ら沈んでいくタイプもいます。<br> しかし、沈んだところからあらたな行き方（生き方）を探る可能性もあります。<br> ===周囲の人の支援の方法=== 別の価値を見つけつきすすむ人、生還できる人と、なかなか社会に入っていけないタイプとの別れ道はなんでしょうか。<br> これを一言でいうのもまた困難ですが、その環境にもかかわらず、子ども本人がそれを自覚し、すすんでいくことが大事です。<br> しかし、それだけをオルタナティブなものと位置づけるのは正当ではないでしょう。 環境そのものの全体を変えるさまざまな方策が必要なのでしょう。<br> 何よりも、子どもが自ら自分の道を進んでいる力があれば（それは要するに精神的に自立していることです）指示と依存の間での葛藤は少ないからです。<br> 私はそれを一言で「自分で自分を育てる」ということにしましょう。<br> その方法、時期やタイミングのとり方、生活のしかた、サポート役（医師やカウンセラーの活用）などさまざまな面があります。<br> それを含めて自分で考え決めていくことです。<br> 当然、相談相手は必要であり、相談相手もまた「自分で自分を育てる」の重要な一部です。<br> 親にとって、直接的なものは、子どもを認めほめることです。<br> 親の価値観、世間的価値観、少なくともそのうちの最高の評価基準とは離れて、一人の人間として認められることを見つける力を親がもてれば、子どもは生活、生存のなかでいろんな姿形を表現します。<br> それぞれの面を受けとめ、受け入れ、あるいはおもしろがり、共感でき、協力し、ときには子どもに教えてもらい、分担していくことができるでしょう。<br> これがほめる系に属するいろいろな方法です。<br> これらのことは、家族だけでなく、学校でも、会社でも、地域でも、あるいは社会のいろいろなところで、それぞれの状況に応じて必要なのです。<br> 少なくともこのことが、子どもの社会性を育てる環境、条件となります。<br> 指示的方法にも依存的方法にも偏らない、ものごとの決め方、進め方の前提がここにはあるからです。<br> （なお私は指示的方法がどのような場面でも不要であるといっているのではありません）。<br> 物事を決める、物事を進めるのに、各人が関わっていくのを育てる条件づくりがここにはあります。<br> 自分が受けとめられることによって他者にそれを求め、そのように構えていく精神・姿勢が育てられ、強められるのです。<br> それは人それぞれの特色、特技…個性を尊重し、そのうえで協力していくことです。<br> 自分との違いを認め、また認められる関係をつくることです。<br> 社会性とはそのようなものです。<br> 引きこもりからの“生還”の中にもそんなタイプはあるかもしれません。<br> ===猥雑な人間・社会の理解=== 「社会」というのは、「家族」と対比して位置づけられるものでしょうが、家族の外にある社会――政治的なこと、経済的なこと、文化的なこと、それらあらゆることを「社会」という言葉で表すことができます。<br> その社会を知識として情報として教えること、学ぶことが社会性を身につけることではありません。<br> その部分もありますが、むしろその前提はこのような自分を生かす、生かされる体験を重ねるなかで培われていくのです。<br> この培われた前提の上に実社会を見聞きし、そこで雑然とした人々（ある友人はそれを猥雑な人間たちと言いました）を通して、より実物の社会を自分の感覚に取り入れていくのでしょう。<br> 知識や情報として整理されたもの、教科書的なものに描かれる社会は、いずれにしても二次情報であり、一次的な雑然とした人間から得られる実物の社会を補足する役割をもつのです。<br> 親や教師や周囲の大人から教え込まれる社会、教科書を通して学ぶ社会はその二次的なものです。<br> これを指示命令的に子どもに植え付ける形では社会性は育ち難いものです。<br> その場における一次情報的な記憶は、それを指示命令的に教える親や教師や大人の人物そのものです。<br> それは猥雑で雑然とした人物像をより化粧した形で子どもの前に提示していて、それだけ一次情報としての役割を不十分にしています。<br> 学校で指導力のあるベテラン教師よりも、若い全力投球で空回りしながら生徒とぶつかっている教師が子どもたちから人気をもつのは、この教師自体の一次情報的役割が高いからではないかとさえ思います。<br> ===引きこもり当事者間の衝突=== 私は『引きこもりと暮らす』という著書のなかで、人生模索の会における、ある対立（いさかい）のあと、2か月余の中断の経験を述べたところがあります。<br> ＡくんＢくんの対立と周囲の人たちの状況です。<br> ここではその背景を「人生模索の会」の成立と運営方法のなかにその重要原因があることを明らかにしたつもりです。<br> 同時に、別の面を少し指摘しておきました。<br> 仲良くなれない人は、すべては敵対者ではなく、仲良くなれない人と非敵対者の関係での交流を維持していくことの必要性を示唆しました。<br> この味方（友人）でない人との、非敵対的な関係とは何でしょうか。<br> 味方ではなくて、人間として尊重していく力だと思います。<br> Bくんに好意的なCくんからは、Aくんに対して人生模索の会への出入りをやめるようにいう一方で、Aくんにべつのそれらしき居場所を紹介していました。<br> これも、Aくんに単純に出入り差し止めを求めるのではなく、別の方法を提示する形で、主観的意識のうちにおいてAくんを人間として尊重した一つの形を表わしたと思います。<br> ただCくんの提示した内容は必ずしも適切ではなかったこと、いずれにしてもそれはAくん自身が決めることであるという点で十分なものではありませんでした。<br> 居場所（当事者の会）や自助グループでは、対人関係をつくる、相談相手や友人、さらには親しい友人関係をつくることを目的としています。<br> 私は、親しい友人関係を数人もてるようになることは、社会参加の中間目標であるとさえ考えています。<br> その一方で、社会参加のためには、親しい友人ができ、対人コミュニケーションの練習ができるだけでは、社会参加にとっては十分ではないことを知りました。<br> それは、先の人材養成バンクの失敗においても、またその後の人生模索の会などに入ってきながら、就職やアルバイトを求めて躊躇している人たちの姿からも学びました。<br> その不足していることの要素は複数あります。<br> その重要な一つがこの社会性の獲得であることに間違いはなかろうと思います。<br> ・到達年齢によっては、社会性の獲得が難しい。<br> ・実際の社会に入っていくなかで、それを身につけるのだが、社会の側に受容の不十分さ（世知辛さ）<br> ・収入につながることがあるレベルで満たされること<br> 〔注書き：最後の3点は、項目のみで内容の記述はありません。2012年6月17日の掲載時〕<br> （１）[[Center:2005年7月ー攻撃的でもなく理解しているのでもない]] <br> （２）[[Center:2005年7月ー見捨てられ恐怖と依存]]<br> （３）[[Center:2005年7月ー指示的な言葉と依存的な対応]]<br> （４）[[Center:2005年7月ー社会性獲得の過程]]<br> （５）[[Center:2005年7月ー自己否定感と対人関係]]<br> （６）[[Center:2005年7月ー非引きこもりとのつきあい方]]<br> [[Category:不登校情報センター・五十田猛・論文とエッセイ|2005年07月]]

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