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==介護の社会化・育児の社会化==
テーマを家事労働の社会化に進めます。横浜国立大学経済学部テキストプロジェクトチーム（編）『ゼロからはじめる経済入門』（『テキスト』と略称）を参考にします。<br>
全１１章のうち福祉を扱うのは第８章「少子高齢化と社会政策」（担当筆者・相馬直子）で、福祉の経済的側面にも触れたものです。<br>
『テキスト』では、家事労働全体ではなく介護の社会化と育児の社会化を挙げています。<br>
この２つの家事労働は対人的なケア労働であり、対人的なケア労働ではない家事労働は別に考えることになります。<br>
介護の社会化と育児の社会化は１９８９年が重要な転換点だったようです。時系列で書くとこうなります。<br>
（１）介護の社会化＝介護保険制度の成立。<br>
1989年　ゴールドプラン（高齢者保健福祉１０年戦略）の発表。⇒１９９４年新ゴールドプラン（見直し）。<br>
1997年　介護保険法の成立（2000年施行）＝税と保険の混合した仕組み。医療と並び介護が保険制度の形で成立。<br>
2005年　介護保険法改正＝要介護・要支援の区分けに変更。 これにより介護施設の民間セクターの比重が増大。<br>
2015年　介護保険法改正＝介護サービス利用料の自己負担引き上げ。特別養護老人ホームの入所対象者が要介護者に狭められた。<br>
この経過を要約すれば、介護の公的保険制度で受入れる介護施設ができました。<br>
そのサービス内容の向上に利用者の個人負担に比例・増大させる競争原理が持ち込まれました。<br>
「新自由主義的」要素による「介護の社会化」への介入であり、「社会化」要素を薄めながら対応し定着化を図る動きと判断します。<br>

（2）育児の社会化＝保育園制度<br>
1989年　出生率1.57→「1.57ショック」として社会問題化。<br>
出生率が激減しているのに対応する一つとして、子育て環境条件が注目され、その中心が保育です。<br>
1994年　エンゼルプラン（子育て支援の基本）＝緊急保育対策等５カ年対策の発表。<br>
1999年　新エンゼルプラン=少子化対策の具体的実施計画。<br>
保育事業の規制緩和＝自治体、社会福祉法人の他に株式会社、NPOが保育事業に参入できる条件設定。<br>
保育定員の弾力化、小規模保育所の開設条件の緩和。⇒保育園の準市場の形成。<br>
保育所は以前からあり、私の経験でも山陰の漁業集落に１９５０年代にできました。<br>
高度経済成長期の１９６０年代から７０年代にかけて「ポストの数ほど保育所を」という全国的な増設運動がありました。<br>
この時期に子育てをしながら働く主婦層が増大している社会状況が背景にあります。<br>
最近の動きは「介護の社会化」と似た状態です。保育所を充実させ子育て負担を軽減する「育児の社会化」を進めます。<br>
他方では利用者の自己負担を徐々に増やし社会化と営利化の接点（落とし所）を探し求める動きと考えられます。<br>
２０１０年代中ごろには、女性の働く条件を確保の壁になる「保育所に入園できない」問題として再燃しました。<br>
現在は、保育園に入所できない子どもを自治体でゼロにする方向に事態が進んでいます。<br>
この３０年余の経過をみると、行政（市町村区）が、保育の責任からいくぶん身を引き、民間参入を促そうとしています。<br>
それは保育の営利化＝より質の高い保育にはより高い利用者負担を求める形に進む事態を容認しています。<br>
これも広義には「新自由主義」的考え方が影を落としているのです。<br>
家事の中では患者・障害者のケア（看護・医療等）に関わるところは、家族では必要な対応ができない部分があり、医療と医療保険の制度、社会化（社会的分業）ができています。<br>
家事労働の介護と育児はある程度は家族で対応し、家族単独では対応できない部分を補うために社会化が進んできました。<br>
家族機能が大きく縮小したなかで曲がりなりに社会化せざるを得ない、不十分であってもそこから前に進まざるをえないのです。<br>
「子育ては家庭で」という考えや方式は普遍的ではなくなり、介護も同じ方向を向いています。<br>
保育所や介護施設が当たり前になったのです。<br>
『テキスト』では、現在の状況を「新しい社会的リスクへの対応が必要」とし、次の論点を挙げています。<br>
大きな社会的変動、すなわち「家族形成の不安定化（少子化、離婚率の上昇）と雇用の不安定、労働市場の劣化」などが関わります。<br>
そこで生じている「新たな社会的リスクとは、仕事と社会生活が調和しないリスク、ひとり親になるリスク、高齢や障害で要介護になるリスク、非正規労働など非典型的なキャリアのため社会保障から排除されるリスクなど」（p182）です。<br>
いずれも自助および共助で済まされないおおきなリスクです。<br>
これらは社会政策の目標設定を「人々を社会的なリスクから守ることであり、社会的なリスクの公的な管理である」（p183）と認めるものです。<br>
菅義偉首相のとき、これらの事情に対して「自助・共助・公助」が言われ、その主旨はまず「自助」すなわち自分の力で解決、次は「共助」すなわち地域社会等の協力によって対処、そして最後に行政（政府や自治体）の力を利用、と受けとられる発信をして不評を買いました。<br>
大きな社会的変動期である現在の対応の基本は、「公助」を準備し、そして「共助・自助」が続きます。<br>
社会的なリスクの公的な管理とは「公助」です。<br>
菅元首相の「自助・共助・公助」の表明はここを見誤まり、順番を間違い、政府の福祉政策に大きなブレを生み出したと思えます。<br>
この家事労働の社会化は、私にはＧＤＰに換算されない家事労働をどのように理解すし、取り扱うかの視点になります。<br>
介護と育児は、家事労働のなかで、家族のケアに関わる部分です。<br>
両者の社会化によって、自宅での介護と育児という家事労働の労働としての判断基準が生まれつつあるかもしれません。<br>
単純な比較は難しいし、介護・保育とも施設での労働評価が低いことは確かですが、基準を考える芽にできるのでしょうか。<br>
事態を理解するには家事労働の他の事情も整理してみる必要があります。<br>
家庭・家族内の炊事・掃除・洗濯・家屋改善などは、外部にそれぞれサービス産業ができており、これらは基本的には市場原理によって動いています。<br>
家事労働のこの対応部分も後で考えていきます。<br>

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