Center:あとがきー『引きこもりと暮らす』
あとがきー『引きこもりと暮らす』
本書は不登校情報センターに通う引きこもり経験者の動きをその当事者の会(居場所)における対人関係の面から、一つのミニ社会における現象とみて、その履歴をまとめたものです。
その軌跡は1996年8月以降の7年になります。
本書に記録したのは昨年(2002年)3月までのことです。
この最近1年にふれなかった事情はこうです。
昨年3月31日、ここに「あゆみ書店」という引きこもり経験者にとっての“仕事の練習の場”が生まれました。
それは“不登校・引きこもりとその周辺事情の専門書店”という性格をもっています。
最近1年の当事者の会(居場所)に言及する場合、あゆみ書店にふれないわけにはいきません。
しかし、これは独自の大きなテーマになります。
また、当事者の会(居場所)を一つのミニ社会として考えたとき、その動きを評価するにはある程度時間をおき、自分なりに客観視して振り返るだけの余裕も必要です。
そして何よりも現実に登場する人たちのプライベートな事情も考慮しなくてはなりません。
これらの点をふまえて、最近1年間の動きを、この時点で、本書の中で描く形はやめました。
私は、引きこもりの人が社会に入っていく過程には三つの重要な関門があると考えています。
第一は、家から外に出られるようになることです。
第二は、対人コミュニケーション、特に同世代に近い人との対人関係が築けるようになることです。
第三が、社会参加であり、就職そのほかの形で自立的に社会生活ができることです。
本書は、第二の対人コミュニケーションの場面を描いたものです。
第一の点は、時期を前後して不登校情報センター訪問サポート部トカネット編による記録を発表します。
『不登校・引きこもりと訪問サポート』(仮)として同じく東京学参(株)から出版されます。
第三の社会参加をテーマにした取り組みは、本書のつづきとして残ります。
それには少なくとも「あゆみ書店」開設以来の一年の取り組みがあります。
そのなかにはある事務機メーカーより贈呈を受けたデジタル印刷機を生かした印刷室と版下制作室があります。
それに必要なパソコンもある教育機関から贈呈を受けました。
これら印刷・出版関係とは別に出張掃除グループもできそうです。
これは親の会(いいな会)に加わる人により業務用掃除機が使えるようになったことが力になっています。
人間の関心、得意なこと、能力は一人ひとり違いますから、仕事づくりの場面が広がることは、引きこもり経験者にとっても望ましいことです。
これら全体を「あゆみ仕事クラブ」としてグループ化しています。
当事者の会(居場所)は、基礎的な対人コミュニケーション(友人づくり)を重ねながら、人によっては社会参加をめざす場が少しずつできつつあるところです。
本書の印刷作業過程において、この仕事クラブの版下政策室に加わる人たちによって、文書入力作業がすすめられました。
ささやかですが、貴重な実績である、と感謝しています。
2003年3月