喫茶店「コーヒータイム」
喫茶店「コーヒータイム」
所在地 | 福島県二本松市 |
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<大震災6年>古里でコーヒーを…作業所、帰還めど立たず
サイホンを使ってコーヒーを1杯ずつ丁寧にいれる志賀さん(左)=福島県二本松市の「コーヒータイム」で2017年2月15日、石井尚撮影
「おいしいコーヒーを出すのが生きがいなのに」。
東京電力福島第1原発事故で福島県浪江町から県内避難している精神障害者の志賀千鶴さん(59)が、今月31日で町の避難指示が一部解除されるのを前に不安を募らせている。
古里に来春完成する災害公営住宅(復興住宅)への入居が決まったものの、事故前から働いていた喫茶店は、町民の帰還見込みが数%にとどまることもあり戻れない状況にあるからだ。
浪江町からの避難者が多い同県二本松市の中心地にある喫茶店「コーヒータイム」。
元々は2006年、NPO法人が精神障害者の自立支援を目的に開設した浪江町唯一の小規模作業所だ。
志賀さんは統合失調症を患い引きこもりがちだったが、開設直後から作業所に通い、やがて店での接客も担当するようになって、社会との接点を増やしていった。
原発事故で志賀さんはいったん同県猪苗代町に避難したが、震災から半年後に店が二本松市で営業を再開すると聞き、再び働こうと仮設住宅も引っ越した。
店のテーブルや椅子は、浪江の店で使われていたものだ。
「花の模様がきれいでしょ。
これを見ると落ち着くの」。サイホンでいれたコーヒーの香りが広がる店内で、志賀さんが笑顔を見せた。
浪江町などによると、原発事故前にあった障害者の入所・通所施設は町外の避難先で再開するか休止しており、避難指示解除後に町に戻る予定の施設はない。
コーヒータイムも状況は同じだ。
運営するNPO法人の橋本由利子理事長(63)によると、二本松市の店では地元の障害者十数人も一緒に働き、営業は軌道に乗りつつある。
一方で、施設を浪江に戻しても、障害者がどれだけ帰還するかは分からず、運営スタッフの人件費のめども立たない。
「浪江は、病院はおろか買い物すら原発事故前の生活環境からは程遠い。復興住宅の入居者募集に思わず飛びついちゃったけど、冷静に考えれば、どうすればいいのか」と頭を抱える志賀さん。
「いつか古里でお客さんにコーヒーを出して、味わってもらいたい」との思いだけが、不安な気持ちを支えている。【石井尚】
〔毎日新聞 2017年3月15日〕