保健師の自宅訪問による引きこもり対応のはなし

東京都世田谷区保健所の「対応方法」への回答にこう書かれていました。
「①相談方法:専門医師による個別相談・助言。事前に保健師との相談で予約をする(事前予約制)。
⑥保健師等の自宅訪問:必要に応じて。」

引きこもりへの対応として保健師さんが自宅訪問をする制度があるのです。
別の保健所に相談に行った人の話ですが、同じ回答をされました。
それで「せっかく来ていただいても本人は会わないと思いますよ」といいました。
そうしたところ「何度も訪問するうちに会えるようになる人もいます」というのです。そして「お母さんの健康相談のためということで訪問しましょう」と提案されました。
お母さんはどうしようか迷いました。保健師さんが来ている時間、本人は自室に閉じこもって出てこないだろうし、「あなたのために保健師さんが来る」といえば、訪問拒否が目に見えるからです。それではどちらにしても効果はないのではないかと考えたためです。
私はこの提案に乗ったほうがいいと答えました。特に繰り返してくる点に本気で対応しようとする点を感じたからです。
引きこもりが長期化してなかなか外出できない人には、人を避けながらも信頼できる人、できれば波長の会う人との遭遇を期待する人は多いものです。「人に会いたがっている」と一般論で誰でもいいのではありません。
こういうことに応えるためにはシステムとして、繰り返し訪問する方法がいいのです。人を求めながらも人に対して怖れや不信感になる体験をしていることは多いです。訪ねてくる人は、自室にこもっていても品定めできる可能性が高いのです。安心感を得れば、何らかの方法で、偶然を装うなどして顔を見せることはあります。訪問者は当事者の状態を見ようとしていますが、訪問者のほうが当事者から判断される対象でもあるのです。“合格”をもらわなければ会えるようにはなりません。

現実としてこのような体制になっている保健所は多くはありません。保健師さんの自宅訪問といっても本人が会わない(会えない)となると訪問ストップになることも多いと思います。保健所によっては引きこもり対応は原則としていないところもあります。そういう現状のなかで、この保健所、あるいはこの保健師さんには引きこもり対応のスタンスを感じました。

東京都の保健師と引きこもり

5月3日の「大人の引きこもりを考えるシンポジウム」に保健所保健師の出席を考えました。
葛飾区保健所にお願いしたところ、対応事例がなく「伝えるべき内容がない」ということで断られました。
次に江戸川区保健所に依頼しました。今日その返事をいただきました。
「系統的に対応している事例がない」ことと「プライベートなことに触れるのにセンスティブな状況がある」ことで断りの連絡は入りました。
東京都の場合は、保健所として引きこもりへの訪問は原則として、または系統的にはしていないことがほぼ明瞭になったように思います。
それは東京都として対応していないことと同じではありませんが、他の道府県とは様子が違いそうであると推測できそうです。⇒ 「保健所と引きこもり(東京都)」をみれば区による違いのあることもわかります。保健所で対応していないところは、どこが対応しているのか。ある程度推測できますが、それはこれからの物語としておきます。
シンポジウムの出席メンバーについては、やむなく第3の方法をとることになりました。

シンポジウムに保健師出席の計画も…

4月5日、葛飾区保健所にうかがいました。
5月3日の「大人の引きこもりの社会参加を考えるシンポジウム」に保健師さんの出席をお願いするためです。
不登校情報センターの紹介とシンポジウムの趣旨、パネラーの予定者を話しました。そのあと引きこもりへの対応に関連するいくつかの意見交換をしました。どちらかといえば聞くよりも話していくことが多くなりました。保健師の訪問は障害者自立支援法に基づく取り組みをしており、引きこもりは公式にはその枠に入っていない背景があると後でわかりました。
後日回答をいただくことにして約1時間の意見交換を兼ねたお願いになりました。
4月6日、保健所から連絡がありました。引きこもりの人への対応は事実上していないので出席しても伝えることはないとして出席は断られました。

1時間ほど考えて、隣の江戸川区保健所に同じ趣旨のお願いをしました。
FAX送信の担当セクションがわかりませんから、保健所長宛にしました。
事前に江戸川区保健所に行き相談をしてからの出席できるかどうかの返事を待つ予定です。
直接電話をしたときに電話を受けた人はFAXの文書を見ていません。担当セクションが異なるようで送ったはずの送信文書がどこに行ったかわかりません。改めてFAXで送信しなおし、担当者の手元に届いたのは午後の時間です。文書を見てどうするのかの考える時間が必要のようです。結局この日は時間切れで、保健所に行けるかどうかの確認は月曜日9日まで持ち越しになりました。
このようなわけで5月3日のシンポジウムのパネラーに出席者、内容構成などが具体化できません。
時間が少ないのは気がかりですがやむをえないでしょう。

引きこもり支援に必要なこと

滋賀県の保健所の対応を滋賀県精神保健福祉センターのガイドブックによる紹介情報の転載で紹介しました。
それを作成する過程でいくつかの傾向・動向を見ることができました。
滋賀県精神保健福祉センターとしてまとめた引きこもりに対応する県下の保健所の情報は大筋においては不登校情報センターとして把握し、紹介していこうとする内容と大差はないものと思います。
それでも細かく見るといくつかの重要点があります。
(1)一つは保健所への交通と、開所時間を明記していることです。地域の現実に根ざした活動をしている証拠です。
(2)滋賀県精神保健福祉センターとして把握ないしは推進しようとする活動を具体的な項目にしています。多くの保健所はそれへの対応は「なし」または無回答ですが方向を示しています。その項目には私たちが実態的には追求しているものもありますし、見えない部分も見せてくれます。たとえば草津保健所の回答です。調査項目に該当する取り組みがなくても「無」と答えたので、このガイドブックはその16項目を全部掲載したのです。
「①面接相談:予約制。主に保健師が対応。②カウンセリング:無。③訪問:面接相談において必要と判断した場合は、保健師による家庭訪問を実施。④居場所提供:無。⑤共同生活:無。⑥グループ活動:無。⑦作業:無。⑧電話相談:平日(祝祭日を除く)9時~16時。⑨外出付き添い:無。⑩社会資源利用:必要に応じて同行。⑪職場体験:必要に応じて同行。⑫職場訪問:必要に応じて同行。⑬インターネット相談:無。⑭親の会・家族会:無。⑮ニュースレター発行:無。⑯イベント開催:無。」
相談とカウンセリングを分けています(不登校情報センターも分けています)。訪問、居場所提供、グループ活動、作業、親の会などは不登校情報センターでは実施しているものです。
社会資源利用というのに「必要に応じて同行」と回答しています。これは居場所コーディネーターを試みるSさんの取り組みを思い起こさせてくれます。
インターネット相談は「ネット相談室」として立ち上げたものです。
しかし、不登校情報センターの取り組みには、共同生活、職場体験、職場見学は例外として行なったことがありますが通常はありません。
これら全体から引きこもり支援の基礎的なものが浮かんでくるように思います。仕事づくりや創作活動支援、ネットショップ、学習支援などは保健所の範囲ではないのですがこれらを含めるとさらに全体像が出てきます。

(3)もう一つ重要なのは、保健師が実態的に引きこもりの判断をしつつあることです。当事者・家族と面談をし、心理士のカウンセリングにつなげるのか、精神科医の精神保健福祉相談につなげるのかの判断は保健師が担当していると読み取れるからです。
これは私が提唱している引きこもりの判断は医師だけにしないで、実際に関わっている人たちにも開放するという方向を一致します。それは現実的な背景を持っているばかりではなく、すでに部分的に始まっていることを教えてくれました。
滋賀県以外の保健師の状態をみると、滋賀県における保健師の状態とは矛盾していないことが確認できます。それだけに滋賀県精神保健福祉センターの調査結果は優れているのです。それは調査項目によるのか保健所の回答者がそうしたのかの判別はできないにしても結果は際立っています。

約60の保健所から情報を入手

保健所の引きこもり対応状況を63か所から回答していただいています。うち2件はホームページへの接続の案内、2件が政令指定都市の精神保健福祉センターからの回答です。59件が保健所からの回答であり、いろいろなことが確かめられました。すでに広く知られていることでも私には発見であったものは少なくはありません。
(1)一般的なことですが、保健所は良くも悪くも公共機関らしさがあります。法令で決められたことは体制をつくり取り組んでいます。それがどのレベルになるのかはこれまでの取り組みの蓄積、それぞれの担当者の努力、そして自治体の財政力などに左右されるのでしょう。そういうなかで公共機関としての対応を維持しています。これは貴重なことです。
引きこもりに関してはNPOをはじめ民間で積極的な試みをしていますが、全国にある保健所の日常活動で維持しているベースに展開されている点は忘れないでおきたいものです。
そして保健所の現状はこれまでの政治と行政と社会の結果であると総括的にいうことができるはずです。
(2)いくつかの発見のその1は政令指定都市(以下、政令市とします)の問題です。全国20の政令市(4月から政令市になる熊本市を含む)所在の保健所からの回答はいまのところありません。おそらく引きこもり対応が精神保健福祉センターの分掌になっているのでしょう。
大阪市と熊本市からはその精神保健福祉センターから回答をいただきました(感謝します!)。熊本市の精神保健福祉センターから連絡があり、保健所から用紙が回ってきたけれども回答してもいいのかという問い合わせでした。政令市の保健所からの回答がないことと大阪・熊本2件の例が政令市の場合は精神保健福祉センターが引きこもりを分掌するという私の推測の根拠です。
(3)このことはまた保健所にお願いした情報提供用紙が基本的には精神保健福祉センターにも通用する可能性を教えてくれました。政令市は上記の推測によりますが、それ以外の都道府県等の精神保健福祉センターはどうなのかを知る課題がやや見えてきました。
(4)政令市ではない東京都の場合はもう少し回答例を見なくてはなりません。
北区からの回答では保健所は引きこもり対応から外れています。世田谷区の場合は逆により広い対象者への対応を保健所がすることになっています。これと精神保健福祉センターがどのような役割分担をしているか・していないかが注目点です。
(5)保健所と精神保健福祉センターが共同で学習会を開いているところ(島根県益田保健所)。引きこもりの経験者が相談に対応しているところ(徳島県三好保健所)。相談・カウンセリングの対応に臨床心理士がいるところもあります。このような特別な例は法令によるものではなく、その保健所の対応の発展を示すものです。一区切りしたところでまとめたいと思います。

保健所の取り組みの情報集めから

先週から保健所として引きこもりにどのような取り組みをしているのかの情報提供のお願いを開始しました。情報提供用紙を作成し、FAXで送信しました(一部はFAX番号が不明。用紙の内容は3月16日付けで紹介)。
ある保健所(?)から「対応状態(引きこもりと周辺状態)」とは何を指すのかの質問を受けました。あわせて「いろいろな部門でいろいろな状態の人に対応しているので…」とも聞きました。
これを聞いて質問の意味がわかることがあり、「保健所として引きこもりへの対応を中心に書いてください」とお願いしたところおおよその見当がついたようです。
県によっては保健所が独立した部署になっていなくて、福祉部門の一部、あるいは健康福祉、高齢者対応などと合同のセクションになっているからです。
情報提供は30か所以上の保健所から期待しています。年度末(それとも新年度前)の時期で、保健所にとってこの時期がどういうものなのかはよくわかりません。もしかしたら多忙な時期なのかもしれません。こうして問い合わせをしていただけるのに感謝しています。
情報提供を受けたら、それらを詳細ページとしますが、詳細ページだけをまとめて見られるようにしたいと思います。Wikiシステムではそれも可能です。そうすれば保健所の引きこもり対応のおおよその状況が(個々の保健所の特色があるとしても)つかめるのではないかと思います。

引きこもりに対する葛飾区の事業状況

「引きこもり後を考える会の準備」の文を、東京都葛飾区の区議会議員に見ていただく機会がありました。
それを見て区議会議員が調べたところ、引きこもりに関して、東京都葛飾区が関係している事業はおおよそ次のような状況です。
(1)障害者手帳を受けている人を対象として、区施設ウィメンズパルで支援活動をしている。
(2)保健所は相談者を医療機関につなげる取り組みをしている。
(3)NPO法人かつしか夢プラスが行なう、引きこもりの就労支援事業を援助している。
(4)産業経済課(テクノプラザ)がニート等を含む健常者の就労支援をしている。
(5)隣接の足立若者サポートステーション(NPO法人実施で厚生労働省が支援している)に紹介をしている。
(6)厚生労働省の事業=小規模事業者が雇用をしたとき葛飾区として上乗せ支援をしている。

 個別の事情を調べていただく予定はしていなかったので、話を聴くときも、上手く聞き取れなかったのですが、以上のようにおおかたの見当はつきます。
(1)葛飾区としての引きこもりに関する事業は、NPO法人が事業をするときバックアップすることがある。
(2)周辺事業として障害者、失業者対象の事業があるけれども、引きこもり自体への対策は特にはない。

 これが自治体として平均的かどうかはわかりません。隣の千葉県市川市ではあるNPOの取り組みを支援する形で実質的な引きこもり支援事業をしています。
 不登校情報センターの取り組みへの行政区としての支援を提案できるかもしれません。

 そこで2009年7月に成立した「子ども・若者育成支援推進法」の東京都レベル、葛飾区レベルの実施状況を調べていただくようにお願いいたしました。
 また、厚生労働省の雇用対策対象事業所の条件(現在は終了している事業かもしれません)は、直接に産業経済課を尋ねてみようと思います。