自治体福祉窓口への相談を勧めます

Ntくんは40代に入ったひきこもり経験者です。居住する自治体やその業務委託受けている福祉団体や居場所に積極的に相談に行ってきました。しかし話が進むと衝突し、なかには出入り禁止になっているところもあります。
彼の詳しい説明を聞くと、自治体というのは、それが設けている制度の枠内でしか対応せず、彼が必要としている条件については全く受け入れようとしない——これは私の要約した表現ですが——話が進むなかでそこが明らかになり衝突するようです。
彼の詳しい説明をきくなかで私は自治体の対応の多くがそのようになっている実情を知りました。そうであっても私は、私に電話などで相談をしてくる人には自治体の福祉課や教育相談所や保健所やあるいは社会福祉協議会に相談に行くように勧めています。
その意味はそれによってその自治体が対応している条件の改善が図られる可能性がでること、それにより自治体職員に当事者の要望(むしろ当事者のおかれている状態)を伝えられると考えられるからです。このような相談の場では、多くの人が自治体各セクションの対応の不十分さを実感し、なかにはウツ状態になる人もいました。
首都圏のある市の福祉課窓口にOsくんと一緒に行きました。窓口で私は彼の横に座ったのですが、彼は落ちつかず、十分近くなると立ち歩きしばらくして戻ってきます。これは彼のそのときの症状です。しかし窓口の担当者は私が前に座って話しているので席を外さず対応できる内容などを話してくれます。やがて就労支援課の人が加わり、さらに医療につながる人も交代でやってきました。
結局Osくんはその相談の直後に市立病院を受診し、入院することになりました。一人暮らしであり職に就いていない事情もあり、生活保護を受給することになりました。Osくんは行政窓口で「たらい回し」にされることなく、この状態になりました。この自治体の福祉課窓口はワンストップサービスを提供していたともいえるわけです。この市の窓口はそうしていると思います。
Ikさんはある精神科医院に通院しています。主症状は不眠であり、睡眠剤の処方を受けています。それだけで状態が改善するわけはなくいろいろな相談機関に行き、医療系の講演会に出席し、居場所をのぞいたりするなど本人なりの試みを続けています。しばらく前から保健所に相談に行っています。保健師とカウンセラーが対応しているといいます。
私が自治体に相談に行くように勧めるのはここにも理由があります。福祉課には職員がおり行政職として「その自治体で可能な福祉制度と周辺の対応方法」を案内してくれます。それが相談員の役割です。しかしそれに加えて心理カウンセラーが配属される場合が増えてきました。心理カウンセラーは行政職とは違った視点で、相談者の状態や望むものを引き出そうとすることが多いのです。そのなかには行政的な対応方法のないものも含まれますが、それを引き出すことは私にはその相談者(クライエント)にとっても意味のあることです。Ikさんにとっては少し条件がよくなったと思えます。

数年前からある自治体福祉課が「断らない相談支援」を掲げるようになりました。福祉課はこれまでにできていない施策を受け入れられませんが、相談者の要望をきく、それがどうすれば実現できるのかを考える機会になる——文字通り「断らない相談支援」を受けとめればそういうものになるでしょう。
相談しても一歩も前に進まないこともあると思います。当事者が自分の抱える問題を自治体窓口に行き「必ず何とかする姿勢」が示されれば、わずかずつ動かせると思えます。自治体のいくつかは「8050問題」の改善・解決を目標にしています。障害者支援が出発であったと思いますが、地域共生社会にとりくんでいますし、重層的支援体制として複数の部門の複数の事象を組み合わせて対応する試みもみられます。
全体からみればこれらはまだ端緒的でしょうが、この試みは全国各地の自治体に表われています。私はこれらの理由から自治体の福祉課をはじめとするセクションに相談に行くように勧めてきました。
可能なときは相談に同行し、窓口に同席します。自治体の窓口以外に医療機関の診察の場、教育機関の入学相談の場、サポートステーションやハローワークの相談の場などにも同行・同席してきました。世の中(制度、施策やその前提となる人たちの感覚)は大きくは変わりません。小さな、個人的な苦心の積み重ねが大事だと思うからです。