就職氷河期がひきこもり第2波の理由

社会が大きく変化する時期においては、そこに生活する人たちの考え方、受けとめ方、ものごとの理解のしかたも変わります。「存在のしかたが意識を規定する」というものです。これは若い世代が強く変わるものです。

1950年代後半から1970年代初めまでの高度経済成長期の日本社会の変動は中世の戦国時代までの100年につぐ大きな社会変動期といわれます。1980年代初めの不登校の子どもが目立つようになり、90年代にひきこもりが表われたのは、社会の変動とそれが若い世代に影響したと見ることができます。

私はおおかたこの説明で、不登校やひきこもりが生まれた社会経済的な背景説明の基本は終えると考えていました。しかし不十分なようです。私自身がそれと気づかないまま別の事情を書いていました。2021年出版の『ひきこもり国語辞典』あとがきの一節です。

(ひきこもりの)「第二の波は、2000年代に入りしばらくしてからです。第一波の流れに気づかないうちに合流していた人たちです。発達障害やLGBTs(性的少数者)、障害者、就職難や貧困に見舞われた人たちでした。いわば社会にうまく入れず、ときには排除されてきた社会的な弱者に当たる人たちです。

第二波を感じた当時の私は、ひきこもりの社会参加が目標でした。しかし周りの状況は、私の思いとは反対に社会のあちこちからひきこもり側に近づく人が続いています。自分の心身の状態を維持する方法として、ひきこもり状態に近づくのです。この動きを感じて確実な将来像は描けませんでしたが、この動きは悪いことではない、肯定的な面もあると思い始めました。」(p258-259)

この部分は2005年ごろ宮本みち子さん(放送大学教授)が、就職難に苦闘する若者とひきこもり等若者の状態を「地つづきになっている」と書いているのを見たとき、私と同じ状況把握と読んだ記憶があります。ひきこもりの第2波を私は確かに彼ら彼女らの集まる居場所において感じとっていたのです。

そしてこの第2波を生み出した要因も改めて記すべきだと思います。それは「就職氷河期世代」です。高度経済成長期の延長であり、社会構造の変化した影響によるものです。1990年代初めに日本のバブル経済は崩れ、その後の産業衰退と就職難の時代です。高度経済成長に続く負の部分ともいえるでしょうか。これが2005年ごろまで続きました。〈その後のリーマンショックやコロナ禍時代にもこの不況の波はつづきました〉

就職氷河期世代——高校を卒業して職に就けない人、大学を卒業して職に就けない人、あるいは不本意就職やブラック企業就職、これらの人が誕生したのは、1980年~2000年代初めになります。

高度経済成長期は、産業構造の変化のなかで大量の人口移動、都市と農村の大きな変化、家族の状況に影響しました。続く就職氷河期では産業の衰退・変化のなかで若い世代に安定的な働き口をなくしました。大まかにみて1965年以降の50年間に生まれた人たちは、この連続する社会の産業構造の大きな変化の過程で成長期をすごしたのです。

この過程は同時に交通手段の発達、スーパー・コンビニという小売商店の普及、電化製品の普及など技術的・文化的な進展もあります。パソコンやSNSの普及はより近い時期の事情ですが情報伝達やコミュニケーションにきわだった変化もあります。これらも世代間の違いを広げてきた要因にもなります。

年齢(年代)の違いによる世代間の差は以前からありました。しかしこの50年間の変化・違いはこれまでのレベルとは違います。成長期や青年期という感受性の優れた時期にこの移り変わる時代を過ごしたことは、世代間における人々のものの考え方、受けとめ方、理解のしかたに違いが生まれるのはもっともです。

不登校やひきこもりの経験者は、同世代において仮に1割に満たない少数であっても、世代全体が大きな変動のなかにいました。それを感受性の強い彼ら彼女らが先端的に表現したとみるのが相当です。大雑把に表わせば1960年以前に生まれた人と1970年以降に生まれた人は違うのです。私がかかわったひきこもり経験者の大部分は1970年以降であり、60年代生まれの人は少数でこの人たちは移行期生まれとなります。

もちろん同じ国土に住み、長くつづいてきた生活慣習や法制度の下で暮らし、以前からのほぼ同じ文化的環境のもとで成長しました。連続し継承している部分が大きな割合をしめているのも確かです。それでも世代間において仮に20%程の違いは(計算されるとすれば)、それはかなり大きな世代間差といえます。

私はこれらをひきこもり経験者たちが表わしてきた事情をもとに考えてきました。家庭の世代継承機能が難しくなっている面、女性の側がこの世代継承機能で持続するにはその家庭内ケア労働を評価する面、および取り組み方法として当事者の間で生まれる発想・創意を効果的に生かす居場所の面、などをこれまで考えてきました。それは社会の基盤を支える多くの人にとっても有効な方策であろうと考えます。