児童相談所と警察署の情報共有
児童相談所と警察署の情報共有
ぷらすアルファ 目黒女児虐待死 児相と警察、どう情報共有
東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(当時5歳)の虐待死事件を受け、政府は虐待防止の緊急総合対策を発表。
「児童相談所(児相)と警察の情報共有の強化」を盛り込んだ。
両者間で虐待情報を全件共有する動きが自治体で広がっているが、現場からは他の方法を求める声も出ている。
○「全件対象」に賛否
茨城県内で4月、4歳男児の頭を殴って軽傷を負わせたとして父親(27)が傷害容疑で逮捕された。
「額に傷がある」と親族から通報を受けた児相は直ちに警察に連絡。
職員と警察官が現場に急行し男児を保護した。
同県では1月から、児相がつかんだ情報の全件を警察と共有している。
児相から県警への情報提供は昨年1年間で36件だったが、今年は1~6月の半年間で610件。
県警幹部は「早期の情報共有により、これまでより踏み込んだ対応ができ、事件化につながっている」といい、4月の事件も「全件共有されていなかったら連絡が来なかったかもしれない」と明かす。
全件共有は、高知県南国市で2008年に起きた小学5年男児虐待死事件を契機に同県が初めて導入。
茨城県のほか愛知県(名古屋市を除く)が今年から開始し、埼玉県や大阪府も導入を決めた。
元警察官僚で児童虐待に詳しい後藤啓二弁護士は、「警察は(近隣住民たちからの)110番などで子供がいる家庭に行く機会が多い。
その際、虐待家庭だと児相から知らされなければ、警察が駆けつけても虐待を見逃し、虐待死に至る危険が高まる」と全件共有の必要性を説く。
結愛ちゃんが以前に住んでいた香川県では、警察と児相の連携で2度保護された。
だが、今年1月に転居してからは品川児相が母親に面会を拒まれ、警察との連携もなく手遅れになった。
後藤さんは「児相が警察と情報を共有していれば救えた」と話す。
一方、東京都は全件共有について「児相に相談したことが全て警察に知られると思ったら親は相談しなくなる」と否定的。
小池百合子知事は都議会で「保護者が子供の(安全)確認を拒否している」ケースなど、リスクが高いものは警察と全て情報共有していく方向を示した。
今後情報共有のあり方などの協議を重ね、子供を虐待から守る独自の条例案を策定する方針だ。
NPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事長は「全件共有をすると、子育てに悩む親は逮捕されることを恐れて児相に相談しなくなり、虐待が埋もれる恐れがある。児相職員が虐待を見抜く力をつけ、リスクを的確に判断できる専門性を育てることこそが大事」と提案する。
○国がルール明確化
情報共有の手段として、児相や市町村の福祉・教育関連部署が参加する「要保護児童対策地域協議会(要対協)」を活用する自治体もある。
ほとんどの自治体では警察も参加。
虐待の深刻さや緊急性の判断を児相任せにせず、複数の機関で判断でき、必要な場合は警察が援助に入る。
元文京区子ども家庭支援センター所長の鈴木秀洋・日本大危機管理学部准教授(行政法)は「虐待は(家庭からの)SOSの発信であり、関わりの出発である。共有した後にどうするかが大事。要対協をフル活用し、子育て広場や保育所に誘うなど家庭への支援や介入を多層的に継続し続けることでしか子供の命は救えない」と主張する。
政府は20日、虐待死を防ぐために緊急に実施すべき重点対策をまとめた「緊急総合対策」の中で、児相と警察の情報共有の強化を盛り込んだ。
厚生労働省が児相を設置している69自治体を調査したところ、警察との間で情報共有に関する協定を結んでいるのは56自治体(81・2%)あったが、情報共有の方法や共有の範囲など取り決め内容にばらつきがあったため、警察と児相が共有すべき「情報」の全国ルールを明確化した。
保護者が子供の安全確認に強く抵抗を示すケースなどは、警察との情報共有を徹底していくという。
厚労省の担当者は「全件共有をすべきだという声もあるが、実施する自治体が少ないので、効果を検証する必要がある。今後も検討していく」と話した。
○周囲も声かけを
虐待を経験した当事者はどう考えるのだろうか。
父と継母から身体的虐待に遭い続けた体験を基に虐待防止を訴える活動をしている橋本隆生さん(40)=活動名、東京都在住=は「子供を救う仕組みに『穴』があるから、虐待され死んでいく。情報共有はその穴を埋める一策になるだろうけど、誰にでもできる方法がある。それは、子供に声をかけ続ける大人になること」と話す。
橋本さんは、虐待死を防ぐには「子供の味方」になる身近な大人の存在が欠かせないと考える。
それは、警察や児相の職員でなくてもいい。
「虐待家庭の子供は『自分が悪い子だから殴られる』と責め、虐待のSOSを発信できない。どんなことでもいいから、子供に声をかけ続けてほしい。声をかけるではなく、かけ続けて。大人に心を閉ざした子供がSOSをきちんと自分の言葉で伝えられるまで」
【坂根真理、塩田彩】
通報は「支援の第一歩」
児童相談所や警察が虐待事案に関わるきっかけとなるのが、地域や保育園などからの通報だ。
「告げ口をするようで心苦しい」「本当に虐待なのか分からない」と、ためらうこともあるかもしれない。
だが、NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事の高祖(こうそ)常子さんは「通報は支援につなぐ第一歩と考えて」と呼びかける。
結果として虐待に至らなくても、親が子育てに疲れているケースは多い。
通報をきっかけに行政が子育て支援に入れば、虐待の芽を摘むことができる。
高祖さんによると、虐待の可能性があるサインは、子供にアザなどの外傷がある▽異常に泣き叫ぶ声、壁に何かを打ち付ける音が聞こえる▽夜遅くに子供だけで外にいる▽親を極端に怖がったり、異常に甘えたりする▽汚れた服やいつも同じ服を着ている▽服を脱がされるのを極端に嫌がる、風呂場など特定の場所を怖がる▽子供がいるはずなのに姿が見えない--といった例が挙げられる。
「ある家庭についての情報が地域や保育園から複数寄せられれば、緊急性を判断する大きな助けになる。子供の安全が守られていないと感じたら、ためらわず児童相談所全国共通ダイヤル(189)などに通報してほしい」と話している。
〔◆平成30(2018)年7月26日 毎日新聞 東京朝刊〕
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