実際の話を元にした創作童話「おばあちゃんが、やってきた夜」
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2017年12月19日 (火) 10:55時点における版
実際の話を元にした創作童話「おばあちゃんが、やってきた夜」
あたしはおばあちゃんに会ったことがありませんでした。
ずっと、ずっと前にお空のお星様になったからです。
ママが写真を全部焼いちゃったから、顔も知りません。
ママはおばあちゃんが自分を置いて死んじゃったから、悲しくて怒って写真を全部燃やしてしまったんだ。
おばあちゃんは約束を守らなかったから・・・。
ママに孫の守りをしてあげると指きりしていたのに。
だから、おばあちゃんは、あたしに会いにきてくれたんだ。夢じゃない、妄想でもないよ。
あのなんとかという流れ星の多い夜、窓を開けて空を見上げていたら、強い光の流れ星がひとつあたしの部屋に飛び込んだんだ。
その強い光を放った流れ星は、人の形に変わったよ!!ホントだよ。
ママより幾分小さくて、どこか似ていて、全然違うその光の人は、あたしはおばあちゃんだってすぐに分かって、「おばあちゃん?」と聞いたら「来るのが遅くなってしまってごめんよ。今夜はなんでもしてあげるよ。」って答えてくれたんだ。
あたしの頭がぐしゃぐしゃになるまで、いい子いい子をしながらね。
おばあちゃんは、あたしの布団の枕元でボロボロの洋服を着たバービー人形を見つけて「じゃ、これからね。」と言い、指をパチンとすると、あたしの大好きな赤い色の布が正座したおばあちゃんのひざにかかった前掛けの上にふわりと現れた。
ガラはなんだか昔懐かしい不思議な気がする布だった。
もう一回おばあちゃんが指をパチンとすると、また前掛けの上にドンと音を立てて裁縫セットが現れた。
商売道具のような、職人さんが使うみたいな本格的なもので驚いた。
指をパチンとしただけで目の前に現れたのも、驚いたけどそのときは不思議には思わなかったのが今は不思議。
おばあちゃんはバービー人形に指を広げて触りまわして、ちょっとぶつぶつと言って少し考える風をしたと思ったら、いきなり赤い布をジョキジョキものすごい速さで切っていく。
あたしがびっくりした目をすると、おばあちゃんはそんなあたしを不思議そうにみて、「手伝ってね。」と言った。
あたしは「なにしたらいい?」すると、「糸を通してくれるかい?早くしないとね!」とニッコリ笑ったので急いで赤い糸を針に通しておばあちゃんに渡した。
あたしがうつらうつらして目を開けると、バービー人形は赤い新しい服、ううん、赤い着物を着ていた。
着物だとこの懐かしいようなガラがピッタリだ。早業に感心していると、おばあちゃんは、困った子だね、という顔をして部屋を眺めて「次は片付けだね。」と軽くふーっとして、またパチンとした。赤い布の残りと裁縫セットは消えてしまった。
そして散らかったあたしの部屋が浮かび上がった。
またパチンとしてきれいになるんだな!と思ったら、おばあちゃんは「一緒に片付けるんだよ。」と呆れ顔で厳しい顔つきをしたので怖かった。
でも、ほとんどおばあちゃんが片付けてくれて、あたしの部屋の床一面の漫画本や、色エンピツ、バービーの家の中まで、あっという間にきれいになった。
そして「やればできるんだから。」とおばあちゃんはまた、あたしの頭をぐしゃぐしゃにしてニコニコしていた。
「おばあちゃん、そろそろ行かないとね。」「待って、写真一枚。」とあたしはおねだりした。パパの大切にしているデジカメをそっと借りてきて、セルフタイマーでおばあちゃんと一緒の写真を撮った。
うれしかった。でも、確認すると、あたししか写っていない。
でもいいんだ!!あたしの目には、心には、黒髪のおばあちゃん、色黒のおばあちゃん、背が低くて、小柄なおばあちゃん、ママに似ていると思ったけど、ママよりも、もっとあたしに似ていたおばあちゃんが、はっきり思い出せるから。部屋の明かりが一点に集まり、高いキーンとしたような音とともに、空に帰り、空でまたたいて光った。
次の日の朝、信じてもらえるとは思っていなかったけど、ママに昨夜の出来事を話して聞かせた。
すると、「昨日は50回忌だわ、忘れていたわ。」と言っていつもの朝に戻った。
学校から帰ると、ママとお墓参りに行って、お墓でもママに話した話を一から話すので、ママが困ったような呆れ顔をしていた。
帰りにママは「おばあちゃん約束守ってくれたね。」と独り言をつぶやいた。
〔『公明新聞』2007年 32歳 家事手伝い〕