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ぼそっと池井多

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ぼそっと池井多

世界各国のひきこもりとの対話。閉じた空間で語られる、開かれた言葉とは
―ぼそっと池井多『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』武田 砂鉄による書評
『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(寿郎社)
◆閉じた空間で語られる開かれた言葉による連帯
その当人を知らないのに、イメージだけが積み重なっていく状態って危うい。
「ひきこもり」も、そのひとつだろう。
35年もの間、ひきこもり生活を続けてきた著者は、自らを分析対象にしてくる専門家を警戒する。
彼らは決して「自分と同じ人生や生活の地平に生きている者ではなかった」からだ。
世界各国のひきこもりと交流すべく「世界ひきこもり機構」を創設し、「ふつうの人」はもちろん、「家の中で生活している他の家族たち」さえも知らないネットワークが世界中に広がっていく。
国も家族も会社も帰属意識が薄まっていく世の中にあって、ひきこもりという属性は、「素早く対等に通じ合えてしまう」のだ。
世界各国のひきこもりと対話を重ねていく。
行政の制度の違いを語り合えば、一日じゅうパソコンの前に座っているので背中が痛いと漏らし、仕事を探す方法をシェアしたかと思えば、抱えていた性的虐待の記憶を語り始める人もいた。
閉じた空間に開かれた言葉が投じられることによって、その地下茎はつながりを強固にしていく。
ひきこもりは、とにかく他者から語られる存在である。間接的な語りによって、私たちは直接的に把握した気になる。
インタビュアーが「あなたは働きたいですか」と質問すれば、たとえ「働けるけど働かない」と思っていたとしても、「働きたいけど働けない」とお茶を濁すかもしれない。
当事者からの言葉を都合よくつなぎ合わせて、「これは社会の問題だ」「政治が悪い」と落とし込んでいく。
言葉を引き出しているのに、その言葉があらかじめ予測されているという矛盾。
ひきこもりの当事者たちの連帯が、表層に流れる言葉の危うさを、地下茎からあぶり出している。
[書き手] 武田砂鉄
1982 年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年秋よりフリーライターに。
著書に『紋切型社会』(朝日出版社、2015年、第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』などがある。
[書籍情報]『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』
著者:ぼそっと池井多 / 出版社:寿郎社 / 発売日:2020年10月23日 / ISBN:4909281290
サンデー毎日 2020年11月29日号掲載
〔2021年3/12(金) ALL REVIEWS 武田 砂鉄〕 

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