過ぎし 歌姫へ

 時々今も思い出すんだ。君の昔話を

 

そして今、昔話を語る口には次々とアルコールが

つがれていく

まるで家事でもこなすように

君は貯蔵庫に手を伸ばし

次のビールの栓をあける

 

もし君にこれっぽちの才能もなければ

くそみたいな、その他大勢と同じ才能ならば

よかったのにね

もしくはその夢とやらを手の内におさめて

仔細ながめまわせば良かったんだ

そうすれば君は少なくともやめることができたんだ

…夢見ることを

 

酔いどれに夢にたわむれても

翌朝には虚しさの穴がまた少し広がるだけ

僕は背を向け帰るべきだったんだ

君の瞳に宿る輝きのなごりなんか

目にすることもなく

 

そして僕はビールを口に注ぎ込む

腹に力をいれ、君の闇に吸いこまれないよう

祈りながら

もはや夕焼けすら幕をひこうとしている

光の届かない場所へとこの世界は

姿を変えようとしている

 

幻を追い暗闇に落ちて行こうとする

僕の心に影がさす

もうすぐこの部屋は真っ暗だ

あの輝きのなごりをみつけなければ

多分、永遠に

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