Archive for the ‘詩’ Category

194 手にはペンを

火曜日, 4月 1st, 2025

ほんとうのことを

描こうとして

もがく

 

真逆を描けば

ほんとうのことは

反転表示で現れるか

 

ほんとうのことは

描かれ得ない

ものかもしれない

 

ほんとうのことは

隠喩のなかに

かくされるのみ

 

白昼のさなかにも

影もうつろに

かくされるのみ

 

ほんとうのことを

描こうとする

試み

 

手にはペンを

ペンには力を

力には愛を

193 辺地の仔

日曜日, 3月 2nd, 2025

切望するのは

この世からの脱却

解放

永遠の生

 

遠望するのは

他の次元の宇宙

もはやここから遠く乖離した

真の宇宙

 

依存物と訣別しても

一季節の隔離の後も

僕らは

宇宙船には乗れない

真の宇宙の仔にはなり得ない

 

死の命を受けた

見はなされた

辺地の宇宙の仔

派生の宇宙の仔

 

真の宇宙の仔である

自分の一人に向けて

羨望と嫉妬の念を送る

そしてそれが届くことはない

192 声

土曜日, 2月 1st, 2025

夜に含まれる

小さな発声

遠い鉄道の摩擦音

ラジオのノイズ

盛りのついた猫の声

緊急車輌の走るサイレン

 

真夜中の覚醒に

耳をすます

かすかな音が

言葉を紡ぐ

消え入るような

言葉を紡ぐ

 

声なき者の

弱小さ

大きな声は

不敵な力をもつ

声なき不具者は

ただ耳をすます

 

自我を主張し

大きな声で叫ぶより

声なき者の

声を聞く

紡がれる言葉の

糸を読みとる

191 夜の銃声

水曜日, 1月 1st, 2025

耳元で枕が

パン

と音をたてる

 

頭蓋をつらぬく

かわいた一撃

この夜最期に

落ちていく

 

すべてが止んで

すべては闇に

そうして時は

喪失するまま

 

ひと夜ひと夜

死に至る

無に帰す眠り

死生のあいだ

 

一発の銃声を

最期の覚悟で聞いている

際立つ極み

命の痛み

 

貫かれた頭は

二度ともち上がらない

身体はなれて

夢幻の世界

190 沈む

日曜日, 12月 1st, 2024

お日さま沈む

斜陽のとき

いつのまにやら

くだり坂

 

過去は加工

してもいい

未来は見ない

ままでいい

 

世界は難しく

なりすぎた

生はなるべく

シンプルに

 

言葉を欲して

やまない生き物

抒情にひたる

暇はない

 

うねる激流

進みゆき

深い水底

沈みゆき

189 日のつなぎ目に

金曜日, 11月 1st, 2024

祭りのない秋

冬の訪れ

静かな景色と

空模様

 

途切れる意識の

はざまに在るもの

宙を掻く手と

確かさ執る手

夢とうつつが

頭蓋の裡に映り移ろい

 

眠れず見つめる

天井の

咲かない花のような

幾何学模様

希少な花たちが

開いてゆくのを見届けよう

 

去る日と来る日

まどろむ日のつなぎ目

のりしろが

重なりすぎたり

離れすぎたり

188 無機的な夜

火曜日, 10月 1st, 2024

夜は明けない

日は出ない

見えない路を

徘徊する

 

夢とも何とも

いえないところで

自らそこへと

入っていった

 

その隅っこは

暗かった

顔が闇に

埋ずもれた

 

そうだ僕は

なにものでもない

顔をもたない

無機物だ

 

そろいもそろって

よくもまあ

不毛さだらけで

つどったものだ

 

というよりそれは

集まりではなく

それぞれに在る

一人の僕だ

 

独りの闇で

虚空をつかんで

握ったこぶしを

解く指の一本ずつ