203 真夜中の猫

1月 3rd, 2026  / Author: 中崎シホ

発情期の猫の声

寒い真夜中

悲しげに聞こえる

その夜はいつまでも

猫の声がひびき続けて

 

空腹をかかえて

寒さに震える

真夜中の

見えない猫の

声だけが聞こえて

 

空腹を満たす物

ぬくぬくとした部屋

人間が飼われている

 

狂う鳴き声は

外にいる猫だったか

ここにいない

自らの分身だったか

 

姿を見せない

真夜中の猫は

その狂う鳴き声だけを

発信している

 

かつて寒さと空腹の夜

ひたすら考え沈黙していた

あの夜聞こえたのは

それ以上行ってはいけない

という声だったか

202 一九九五

12月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

はたちの年

社会的事件が複数起こった

はたちの僕らは

自分たちの世界に生きた

煙草と酒と仕事とサボタージュ

郷愁をうたうのではない

抒情を排すると意したときから

僕らには何もない

僕らははたちを失っている

あの夏疲労と寡黙のうち

バイクで走ったアスファルトの上

かげろうの湖は僕らを拒んだ

その冬僕ははたちを脱した

若年特有の奇妙な気分で

僕らにこの年が過ぎた

僕は

濡れた抒情を排し

乾いた発語を求めることで

沈黙に至った

あの年の住人であり

あの年の放浪者であった者らは

この現代でこそ

何者でもない

201 大樹の枝先

11月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

またも

命の終わりを

確かめないまま

次元を移り

確かでないまま

始まっているその生

 

大きな樹木の

枝分かれの先

ある枝が死んでも

大樹のもと

他の無数の枝の

ひとつにかわる

 

枝先が枯れても

切り落とされても

樹は生きていて

自覚なく

いつのまにか

ある枝の生に居る

 

無数の枝先

無数の自身が

次元をこえて

生きている

200 失われる世界

10月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

ものをかたる物語

どもる語り部

言葉によって

言葉はうしなわれる

 

始まる世界の物語

失われてゆく物語

 

糸を紡ぐように

繋ぐ言の葉

そしてもはや繋がらない

発生消滅くり返す

世界は断片

 

詩のない世界

未知の世界に導かれ

収斂していく言葉の混沌

 

言葉にするのをやめたとき

知らない言葉が紡がれて

知らない世界を垣間みる

 

核心はいつも

混沌のうち

世界の終わりに

世界よりほかの何かを始める

199 私たちの目覚め

9月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

自分の目覚めを

世に告げたいみたいに

音をたてて

窓を開ける人がいる

一方

まだ私たちは暗闇にいる

 

闇の中で

肉をそがれ捨てられた

骨をしゃぶってでも生きていく

この自我を産んだ

無自覚な両人を横目に

 

あなたがたの目覚めを

気にしていない

 

私たちはつねに暗闇で

眠っている

あるいは祈っている

私たちに

目覚めはない

 

明けないはずの夜が

明ける意味

198 頭脳に闇を

8月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

やさしい気もちに

なる夜は

落ち着く場所で

息をする

 

眠りたくない

夜の明晰

目覚めたくない

夢の迷走

 

心に影を

頭脳に闇を

 

日はかならず昇る

月はするどく光る

 

頭の中の暗部

いい闇の深さに

生きてることを実感する

197 空と地のあいだで

7月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

人差し指を天に向け

祈りの言葉は

無言のム

かぶる天空

重たい空っぽ

 

足の下には地の圧迫

固い地面から

伝わる力は

この足首を

折る力

 

空に樹々が突き刺さり

草の根は土を掴み取る

草木の眠るうしみつどきに

天空と地の

黒ぐろとどろく

 

空の無

地の獄

空と地のあいだに立って

茫々たる地平を

あたらしく見る