202 一九九五

12月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

はたちの年

社会的事件が複数起こった

はたちの僕らは

自分たちの世界に生きた

煙草と酒と仕事とサボタージュ

郷愁をうたうのではない

抒情を排すると意したときから

僕らには何もない

僕らははたちを失っている

あの夏疲労と寡黙のうち

バイクで走ったアスファルトの上

かげろうの湖は僕らを拒んだ

その冬僕ははたちを脱した

若年特有の奇妙な気分で

僕らにこの年が過ぎた

僕は

濡れた抒情を排し

乾いた発語を求めることで

沈黙に至った

あの年の住人であり

あの年の放浪者であった者らは

この現代でこそ

何者でもない

201 大樹の枝先

11月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

またも

命の終わりを

確かめないまま

次元を移り

確かでないまま

始まっているその生

 

大きな樹木の

枝分かれの先

ある枝が死んでも

大樹のもと

他の無数の枝の

ひとつにかわる

 

枝先が枯れても

切り落とされても

樹は生きていて

自覚なく

いつのまにか

ある枝の生に居る

 

無数の枝先

無数の自身が

次元をこえて

生きている

200 失われる世界

10月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

ものをかたる物語

どもる語り部

言葉によって

言葉はうしなわれる

 

始まる世界の物語

失われてゆく物語

 

糸を紡ぐように

繋ぐ言の葉

そしてもはや繋がらない

発生消滅くり返す

世界は断片

 

詩のない世界

未知の世界に導かれ

収斂していく言葉の混沌

 

言葉にするのをやめたとき

知らない言葉が紡がれて

知らない世界を垣間みる

 

核心はいつも

混沌のうち

世界の終わりに

世界よりほかの何かを始める

199 私たちの目覚め

9月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

自分の目覚めを

世に告げたいみたいに

音をたてて

窓を開ける人がいる

一方

まだ私たちは暗闇にいる

 

闇の中で

肉をそがれ捨てられた

骨をしゃぶってでも生きていく

この自我を産んだ

無自覚な両人を横目に

 

あなたがたの目覚めを

気にしていない

 

私たちはつねに暗闇で

眠っている

あるいは祈っている

私たちに

目覚めはない

 

明けないはずの夜が

明ける意味

198 頭脳に闇を

8月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

やさしい気もちに

なる夜は

落ち着く場所で

息をする

 

眠りたくない

夜の明晰

目覚めたくない

夢の迷走

 

心に影を

頭脳に闇を

 

日はかならず昇る

月はするどく光る

 

頭の中の暗部

いい闇の深さに

生きてることを実感する

197 空と地のあいだで

7月 2nd, 2025  / Author: 中崎シホ

人差し指を天に向け

祈りの言葉は

無言のム

かぶる天空

重たい空っぽ

 

足の下には地の圧迫

固い地面から

伝わる力は

この足首を

折る力

 

空に樹々が突き刺さり

草の根は土を掴み取る

草木の眠るうしみつどきに

天空と地の

黒ぐろとどろく

 

空の無

地の獄

空と地のあいだに立って

茫々たる地平を

あたらしく見る

196 掌

6月 1st, 2025  / Author: 中崎シホ

手のひらの

生命線をかき切って

自らを

追いこみ生きる

 

手のひらを見る

その目を信じて

あるはずのない

バグを見つける

 

手のひらを

見れば見るほど

自らの手という

奇妙な感覚

 

手のひらどうし

合わせて無心

何者でもない

モノを目指す

 

手のひら開いて

握るまで

時間をかけて

拳も堅く