205 小石
3月 1st, 2026 / Author: 中崎シホ小石を拾って
水面に投げた
自分で拾って
自分で投げた
助けられたり
うながされたり
指示されるのではなく
自分で投げた
水面に広がる
波紋を見ていた
消え入る波を
最後まで
小石を拾って
投げたこの手に
小石はもはや
無いけれど
拾って投げた
小石の重さは
この手にずっと
残っていた
205 小石3月 1st, 2026 / Author: 中崎シホ小石を拾って 水面に投げた 自分で拾って 自分で投げた
助けられたり うながされたり 指示されるのではなく 自分で投げた
水面に広がる 波紋を見ていた 消え入る波を 最後まで
小石を拾って 投げたこの手に 小石はもはや 無いけれど
拾って投げた 小石の重さは この手にずっと 残っていた 204 目2月 1st, 2026 / Author: 中崎シホ見てる煙草の火で 目だまをつぶす
その衝動を 抑えこむ
目を固くつぶって そこから逃れる
視覚優位の ヒトの脳
目は膜一枚で 世界とつながる窓
目を開いてるだけで 怖ろしい
明るさの中 光が目を衝く
やさしい暗がり 目を開ける
見えない答えを 探しつづけて
なお眼球を射抜く とがった矢を見る 203 真夜中の猫1月 3rd, 2026 / Author: 中崎シホ発情期の猫の声 寒い真夜中 悲しげに聞こえる その夜はいつまでも 猫の声がひびき続けて
空腹をかかえて 寒さに震える 真夜中の 見えない猫の 声だけが聞こえて
空腹を満たす物 ぬくぬくとした部屋 人間が飼われている
狂う鳴き声は 外にいる猫だったか ここにいない 自らの分身だったか
姿を見せない 真夜中の猫は その狂う鳴き声だけを 発信している
かつて寒さと空腹の夜 ひたすら考え沈黙していた あの夜聞こえたのは それ以上行ってはいけない という声だったか 202 一九九五12月 1st, 2025 / Author: 中崎シホはたちの年 社会的事件が複数起こった はたちの僕らは 自分たちの世界に生きた 煙草と酒と仕事とサボタージュ 郷愁をうたうのではない 抒情を排すると意したときから 僕らには何もない 僕らははたちを失っている あの夏疲労と寡黙のうち バイクで走ったアスファルトの上 かげろうの湖は僕らを拒んだ その冬僕ははたちを脱した 若年特有の奇妙な気分で 僕らにこの年が過ぎた 僕は 濡れた抒情を排し 乾いた発語を求めることで 沈黙に至った あの年の住人であり あの年の放浪者であった者らは この現代でこそ 何者でもない 201 大樹の枝先11月 1st, 2025 / Author: 中崎シホまたも 命の終わりを 確かめないまま 次元を移り 確かでないまま 始まっているその生
大きな樹木の 枝分かれの先 ある枝が死んでも 大樹のもと 他の無数の枝の ひとつにかわる
枝先が枯れても 切り落とされても 樹は生きていて 自覚なく いつのまにか ある枝の生に居る
無数の枝先 無数の自身が 次元をこえて 生きている 200 失われる世界10月 1st, 2025 / Author: 中崎シホものをかたる物語 どもる語り部 言葉によって 言葉はうしなわれる
始まる世界の物語 失われてゆく物語
糸を紡ぐように 繋ぐ言の葉 そしてもはや繋がらない 発生消滅くり返す 世界は断片
詩のない世界 未知の世界に導かれ 収斂していく言葉の混沌
言葉にするのをやめたとき 知らない言葉が紡がれて 知らない世界を垣間みる
核心はいつも 混沌のうち 世界の終わりに 世界よりほかの何かを始める 199 私たちの目覚め9月 2nd, 2025 / Author: 中崎シホ自分の目覚めを 世に告げたいみたいに 音をたてて 窓を開ける人がいる 一方 まだ私たちは暗闇にいる
闇の中で 肉をそがれ捨てられた 骨をしゃぶってでも生きていく この自我を産んだ 無自覚な両人を横目に
あなたがたの目覚めを 気にしていない
私たちはつねに暗闇で 眠っている あるいは祈っている 私たちに 目覚めはない
明けないはずの夜が 明ける意味 |