12月 1st, 2025 / Author: 中崎シホ
はたちの年
社会的事件が複数起こった
はたちの僕らは
自分たちの世界に生きた
煙草と酒と仕事とサボタージュ
郷愁をうたうのではない
抒情を排すると意したときから
僕らには何もない
僕らははたちを失っている
あの夏疲労と寡黙のうち
バイクで走ったアスファルトの上
かげろうの湖は僕らを拒んだ
その冬僕ははたちを脱した
若年特有の奇妙な気分で
僕らにこの年が過ぎた
僕は
濡れた抒情を排し
乾いた発語を求めることで
沈黙に至った
あの年の住人であり
あの年の放浪者であった者らは
この現代でこそ
何者でもない
11月 1st, 2025 / Author: 中崎シホ
またも
命の終わりを
確かめないまま
次元を移り
確かでないまま
始まっているその生
大きな樹木の
枝分かれの先
ある枝が死んでも
大樹のもと
他の無数の枝の
ひとつにかわる
枝先が枯れても
切り落とされても
樹は生きていて
自覚なく
いつのまにか
ある枝の生に居る
無数の枝先
無数の自身が
次元をこえて
生きている
10月 1st, 2025 / Author: 中崎シホ
ものをかたる物語
どもる語り部
言葉によって
言葉はうしなわれる
始まる世界の物語
失われてゆく物語
糸を紡ぐように
繋ぐ言の葉
そしてもはや繋がらない
発生消滅くり返す
世界は断片
詩のない世界
未知の世界に導かれ
収斂していく言葉の混沌
言葉にするのをやめたとき
知らない言葉が紡がれて
知らない世界を垣間みる
核心はいつも
混沌のうち
世界の終わりに
世界よりほかの何かを始める
9月 2nd, 2025 / Author: 中崎シホ
自分の目覚めを
世に告げたいみたいに
音をたてて
窓を開ける人がいる
一方
まだ私たちは暗闇にいる
闇の中で
肉をそがれ捨てられた
骨をしゃぶってでも生きていく
この自我を産んだ
無自覚な両人を横目に
あなたがたの目覚めを
気にしていない
私たちはつねに暗闇で
眠っている
あるいは祈っている
私たちに
目覚めはない
明けないはずの夜が
明ける意味
8月 1st, 2025 / Author: 中崎シホ
やさしい気もちに
なる夜は
落ち着く場所で
息をする
眠りたくない
夜の明晰
目覚めたくない
夢の迷走
心に影を
頭脳に闇を
日はかならず昇る
月はするどく光る
頭の中の暗部
いい闇の深さに
生きてることを実感する
7月 2nd, 2025 / Author: 中崎シホ
人差し指を天に向け
祈りの言葉は
無言のム
かぶる天空
重たい空っぽ
足の下には地の圧迫
固い地面から
伝わる力は
この足首を
折る力
空に樹々が突き刺さり
草の根は土を掴み取る
草木の眠るうしみつどきに
天空と地の
黒ぐろとどろく
空の無
地の獄
空と地のあいだに立って
茫々たる地平を
あたらしく見る
6月 1st, 2025 / Author: 中崎シホ
手のひらの
生命線をかき切って
自らを
追いこみ生きる
手のひらを見る
その目を信じて
あるはずのない
バグを見つける
手のひらを
見れば見るほど
自らの手という
奇妙な感覚
手のひらどうし
合わせて無心
何者でもない
モノを目指す
手のひら開いて
握るまで
時間をかけて
拳も堅く