居場所バックヤード

土曜日, 11月 10th, 2012

以前バイトしていた本屋で、店内にバックヤードと呼ばれる備品が置いてあるスペースがあった。

 

紙袋やテープやブックカバーが置いてありそこからレジに補充していた。

 

バックヤードと言ってもそんなたいそうなものではなく、大きな本棚の奥にスペースを確保しただけのものであった。

 

ある朝、開店準備の最中に私がバックヤードに備品を取りに行くと、初老の男性が座っていた。

 

直感でホームレスの人だと思ったが私は何事もなかったかのようにバックヤードから出てきてしまった。

 

それでもイカンと思い私は男性に「ここは休むところではないですよ」と声をかけた。

 

抵抗されるかなーと思ったが男性はあっさりとバックヤードから去っていった。

 

ミーティングで報告したところ、たぶん閉店間際に店内に入り込んでバックヤードで一夜を明かしたのではないか、これからはバックヤードの見回りを強化しましょうということになった。

 

しかし、その謎の男性は我々の監視を巧みに潜って何度もバックヤードに忍び込み一夜を明かしていた。

 

それでも備品も本も一切盗ることなくお店の開店とともに去っていくので、いつしか彼は「社長」というあだ名がついて親しまれるようになった。

 

朝のミーティングでも「今朝社長居ました」で済むようになった。

 

だがこれは建造物侵入罪だから警察に通報するかなどと言ってるうちにいつしか社長は姿を見せなくなった。

 

どこぞのバックヤードでも見つけたのであろうか。

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