(8)ひきこもり支援策は社会全体をゆたかにする要素

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昨年の調査でひきこもりは全国で146万人を超えると発表されました。ひきこもりは社会的病理に分類されていますが、それならこの30年近くの日本経済の停滞もまた社会的病理と言えます。
この日本経済の停滞から抜け出すこととひきこもりからの「回復」は重なります。ひきこもりに対し真剣に考えられ、研究もされてきた精神心理学、身体科学、社会福祉、職業習練等の基本は、個人の状態に目を向けられていました。個人の状態を改善するために、医学・心理的な理解や、社会制度等の体制を整えることに目を向けられました。
それは旅客船の乗客各人の好みや悩みを把握して対応することでしたが旅客船が平穏な海域に向かっているのか、波荒い海域に向かっているかは気にしていないもの——そうたとえることができるものです。
ひきこもりに基本的に対応する、経済社会の面から考えるというのは、日本経済のおかれた状態がどちらに向かうのか——旅客船はどこに向かうのか——を考えることになるのです。乗客個人——ひきこもり当事者に対応する努力がこれを考える基本になるのですがその合計では経済全体を把握できません。
私は、10月の臨時国会における総理の施政演説は評価できませんが、これまでの30年を「コストカット」であった点と認め、そこから方向転換をめざすところは同意できます。ひきこもり問題、とくに146万人とされる人たちへの対応はこの「コストカット型社会」から抜け出すことと一致すると思うからです。

これが基本的な考え方の1つですが、もう1つの基本は、146万人(人口の1%余)という人たち自身が、この新しい方向の内実を埋めていく一端の役割をするという点です。彼ら彼女らは、一面では支援対象(財政支出)対象とされますが、主要な面は彼ら彼女らが日本経済を回復する役割の一端になるのです。それは「ひきこもり支援者交流会」がひきこもり当事者自身の参加によって「ひきこもり協同実践者交流会」と名称を変えたことと同じです。そう認められる社会が「ひきこもりであることが不当に見下されたりすることのない社会」であろうと思います。
国民全体がゆたかさをめざすとき、その国民に子ども、高齢者、障害者、社会的弱者、ひきこもりは入らないのでしょうか。経済的な発展を目指し商品開発を進め、新しいサービス産業ができてもその購入者や利用者がいないことには経済社会は成長しません。技術開発が生産性を向上させ、ゆたかな社会に導くカギを握っているとしても多くの国民がそれを利用できなければ、目標に近づくことはできません。この30年の日本社会の停滞とは、比較的少数の購入者・利用者による状態が続いてきた結果ではないですか。
すでにゆたかな少数の人よりも多数の人をゆたかにする方策の中で国民全体も豊かになり、新しいサービスも利用できやすくなります。それは国民経済全体を豊かにしていきます。こういう構図の中でひきこもり対応を考えるのが、経済社会面からのひきこもり支援策です。

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