自治体が子どもの居場所を用意する時代

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1980年代の初め、私は月刊教育誌の編集者をしていました。教育誌は主に小学校教師向きであり、 教師との接触も多く 教育実践記録などを書いてもらいました。
岐阜県恵那地域に石田和男さんという教師がいて、何かのおりに「住民から生活のいろいろな問題が学校に持ち込まれている」主旨の話をしていました。地域の人との結びつきが強く、学校や教師が信頼されており、いろんなことが学校に持ち込まれていたのです。あの時代から40年が過ぎ、当時の子どもたちも50代になっています。社会のベテランとして生活と地域を支えています。
現在の子どもたち——幼児から中学生を想定します——はどうでしょうか? ここでそれを詳しく述べるのではありません。私が携わっている不登校情報センター内に「ひきこもり周辺ニュース」サイトがあり、自治体が子どもの居場所づくりに取り組んでいる状況を掲載しています。それに関連することが今回のテーマです。
40年前、いやもう少し前の1950年代(日本の高度経済成長以前)からふり返りましょう。当時は既に明治期つくられた小学校、中学校がありました。幼稚園もあり、保育園もできていました。
その外側に大人が関わらない子ども世界がありました。田舎にいた私には浜辺や林野が遊び場であり、多くの子どもがいました。大人の影はまれで異年齢の子ども集団です。学習塾はなく、珠算教室がありました。外遊び中心、集団遊び中心の子ども世界です。これは主に男子のことで実は私には女子の世界や都市部のことはよくわかりません。
高度経済成長の時代を迎えました。中学・高校を卒業すると若い世代は都市・工業地域に大量に移動しました。その後帰郷する者は少なく、都市に出かけた人はそこに住み、都市は肥大化し、農山村地域は徐々に過疎化が進行しました。子ども時代を過ごした島根県石見地方は「過疎」という言葉の発祥地だそうです。
当時すでに学校外の子どもの居場所には都市域中心に児童館がありました。また都市域で働く女性が結婚し共働きが増大するとともに保育所も増えていきました。
70年代はじめに「子どものからだがおかしい」という報道がされました。学校の朝礼時に倒れる子どもが各地に表われ、アトピー症状をもつ子どもがふえました。80年代(私が編集者のころ)不登校の中学生が表われ、90年代にはひきこもり、発達障害という言葉がよく使われるようになりました。
行政の側では不登校の子どもを迎える適応指導教室が生まれました(民間のフリースクールの官制版)。保育所の延長である学童保育も徐々に増えていきました。
保育所・幼稚園、適応指導教室、学童保育、児童館の活動状況や名称は必ずしも統一的ではありません。東京都江戸川区では、学童保育は「すくすくスクール」、適応指導教室は「サポート教室」、児童館は「共育プラザ」です。取り組み内容や目的は違うといっても重なる部分もあり、全国を見渡すと名称がばらばらなのでこれらの区別は難しいです。
2013年ごろに子どもの貧困(子どもの6人に1人が貧困に相当)状態が明らかになるなかで、子ども食堂が広がりました。少なくとも全国に4000か所以上あり、宿題など学習もできる場、親と一緒に来る所、地域食堂に向かう所など内容は多様化しています。
ここに2020年にコロナ禍がきました。それが落ち着いたのが現在であり、コロナ禍になって「成育期・成長期にコミュニケーションを身につける場」を失くした子どもに、何らかの居場所がそれを補足し、代替できる場が求められているのです。
私の知る範囲では全国の自治体が、子どもの居場所、生活場所づくりにさまざまな工夫をしています。埼玉県北本市には居場所として、子ども食堂、駄菓子屋、寺小屋(学習のあるお寺)、団地の中庭、制服リユースの機会などが居場所ネットワークとして広報されています。千葉県松戸市では「子どもの居場所課」ができました。この動きは全国的であり、自治体が子どもや父母の取り組みを応援し、子どもの居場所をつくり、呼びかける状況です。
この子ども世代の動向、社会の受け入れ対応状況、施設や制度について私は全体状況を知りません。明確なことは家族の世代継承機能が、個別の家族では行ないにくくなり、地域や自治体の助力を要することになっている、と認められことです。
これは1980年代に私が「そのうちに必要になる」と予感していたこと——月刊教育誌を編集するなかで感じていたこと、石田和男先生が「学校・教師でできないこと」を社会が相当する場をつくって対処することが避けられない時期になっているのです。

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