家事と仕事の両立視点から家事労働を考える

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太田聰一・橘木俊昭(著)『労働経済学入門[新版]』(有斐閣.2012)を読みました。労働経済学の視点から家事労働を考えようとしたのです。本の後半は、女性の労働、若者の労働、高齢者の労働を個別に挙げています。とくに第8章「女性を働きやすくする」は、家事労働を考える上で、かなり参考になります。
「多くの労働経済学の教科書では、女性労働は章を設けて論じられていない。…本書では女性労働の問題をこの章に集中して考察することにしたい」(P159)とあります。そして女性労働の特徴を4点あげています。
《① 「夫は仕事、妻は家事」という意識が社会に根強く(性別役割分担の意識)、それが女性の労働供給に影響を与えている。
② 結婚や育児のために女性が労働市場から退出して、非労働力となることが多い。
③ 企業において女性への処遇に差別がある。たとえば、男女間で大きな賃金格差があったり、女性の管理職が男性に比べて少ないなどの問題がある。
④ 女性に非正規労働(パートタイム労働者、派遣労働者、契約社員)の人が多い。
これらは相互に密接に関連しながら、女性の労働問題全体を形づくっている》(P159-160)

「女性労働率(勤労可能な世代のうち、労働力となっている割合)……戦争前や戦争直後の数年は60%を超えていた」——農業が主産業(家業)であった時代では、女性は家事と家業の兼業であったのです。
「高度成長期頃から低下し、40%台になった。しかし1970年代半ばあたりから反転し上昇し始め、1991~92年のバブル経済のピーク時に50.7%を記録し、その後はやや低下している。…25-59歳の女性の労働力率は傾向的に上昇している」(P160)。
高度成長期以降は家計が豊かになり、「妻は専業主婦として家事と育児に特化できる」…「夫は仕事、妻は家事」という分業が最も際立ったのがこの時期。

「夫は外で働き妻は家を守る」考え方の賛否(%):大きく変化している。
1972年
男性 賛成 52.3% どちらかといえば賛成 31.5% ⇒合計 83.8%
女性  賛成 48.8% どちらかといえば賛成 34.4%⇒合計 83.2%
2009年
男性 賛成 11.9% どちらかといえば賛成 34.0% ⇒合計 45.9%
女性 賛成  9.5% どちらかといえば賛成 27.8%⇒合計 37.3%

結婚時に退職した女性が再就職に向かう理由(バブル経済崩壊後)
① 就職経験がある。
② 夫の所得だけでは家計に余裕がない(子どもの教育費や住宅ローンの返済)。
③ 高学歴化に伴う就職志向の高まり。
④ 経済のサービス産業化により女性の就職機会が拡大(働く環境の整備)。
⑤ 外食産業や電化製品の普及で家事負担が軽減。
これらの結果、家事・育児の負担の多い女性は「仕事と家庭をどう両立させる」かが問題になる。これが少子化問題の背景になっている。

家事・育児と女性の就業の関係〈片働き・共働きの推移〉
共働き世帯数の増加 (5割増加)
1980年 800万強世帯 ⇒ 2010年 1200万弱世帯
雇用者の共働き世帯 (2倍に近い増加)
1980年 600万世帯 ⇒ 2010年 1100万世帯
男性雇用者と無業の妻の世帯 (かなり減少)
1980年 1100万世帯 ⇒ 2010年 800万世帯

共働き世帯における女性の就業方法(パートタイム労働者数)
1980年 28% ⇒ 2010年50%前後(約1100万人)
この理由は「家事、育児負担が女性に重いことから、短時間勤務が家庭との両立を図るのに好都合。…雇用側にとっても、パートタイム労働者の雇用には、多くの場合は社会保険料の事業主負担部分を支払う必要がない」。

男女共同参画社会——1999年「男女共同参画社会基本法」の制定。
仕事と子育て(+介護)の両立支援策、女性のチャレンジ支援策が実施される。
育児・介護休業法(子どもが1歳になるまでの休業を認め、3歳までは勤務時間の短縮を講じる。
休業期間中の所得は、雇用保険から休業労働分の40%、1歳2カ月までは育児休業できる(男女とも)。
育児休業取得率(2009年)は女性85.6%、男性1.72%。
*現状は法の目的からほど遠いところにある。

ワーク・ライフ・バランス
2007年12月、政府は「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定。「背景には、多くの労働者が長時間労働などのために仕事と家庭のバランスが崩れている状況では、いくら家庭面だけを整備しても、実効性が伴わないという考え方がある」(P175)
となって、この章は終わります。

女性労働の位置、内容、現状と問題点などがそれなりに整理されているのが第8章です。感想としては迫力不足。迫力で問題を解決できるとは思えませんが、現状を見たうえで転換する方向を想定できないと、現状認識も迷停する感じがしました。
具体的イメージとしては、子育て手当を子育てに関わる家事労働と評価し、子ども用の費用+子育てに関わる家事労働と見立てるのはどうでしょうか。
介護手当は知りませんが、身体不自由な人への障害者手当を参考に考えます。それを参考にすると、介護を受ける側の生存権と介護に関わる家事労働になります。
その他の家事労働を「家庭を維持、存続させるための家事労働と認める」考え方はどうでしょうか。
私の考えることはいささか飛躍が過ぎるでしょう。それでも少子化が進行し、社会の持続可能性がさらに動揺する事態では、何らかの対応を政府・自治体は考えざるを得ないでしょう。その際には飛躍した考え方も求められるのではないでしょうか。すでにその時期になっているのではないですか?
仮に政府と自治体が対応を進めるとしても、一度に大きく前進する見込みはありません。各人・各家族がそれぞれの存続策を考えるしかありません。そのとき大きな負担になるのは子育てとともに高齢者介護だと思います。核家族化した延長で、家庭内介護はきわめて難しいでしょう。先に私が共同家族(合同家族)の発想を述べたのはその意味もあります。
政府・自治体などの制度面からの手が伸びる速度と規模内容に対するのと、住民、国民の間で自然発生的に広がる家族形態の変化。この二つがどのように交錯して進むのかを注目していきます。

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