以前に一緒に活動をしていたトカネット(一般社団法人)の藤原宏美さんから本を1冊贈られました。彼女が出版した『独身・無職者のリアル』(扶桑社新書,関水徹平氏との共著)の一部が、大学入学試験の小論文資料として採用されたのです。福岡県立大学人間社会学部・看護学部の入試小論文に「望まない孤独」があり、その設問の参考になる8点の資料の1つに次の部分が引用されました。
【資料7】欲望が働こうとする力を生み出す
「私は、人間の欲が生まれる条件には二つあると思います。まず一つ目は、社会の中に自分の居場所が存在すること。二つ目は、自分を肯定してくれる人がいることです。この二つが存在してこそ、自分は社会の中に存在していいのだという自己肯定が生まれます。そうなれば「もっと自分を高めたい」と思う向上心から、必要な欲が生まれてきます。そして、その欲は実現するための意欲や気力・モチベーションになり、具体的に活動エネルギーとなって動きだすわけです。つまり、社会参加をしていないひきこもりの人たちが動けないのはそういった欲が少ないため、活動エネルギーを生み出せないのです。
失業状態が長くなると就労先が見つかりにくくなるのは、ただ履歴書の空白の問題だけではなくて、一番肝心な本人の就労意欲がなくなってくるからなのです。
今は心が充(み)たされるための条件が、物質的なものから精神的なものへと移行しているように感じます。物に溢(あふ)れた中で育ってきた若い世代の人たちは、友達との会話、音楽や学ぶこと、旅やボランティアや、そんな日常をとても大切にし、人とのつながりの中に自分の居場所を見つけている。その居場所が、彼らの幸せの価値観に近いような気がします。
彼らが将来、やりたい仕事に就いて心が充たされる人生を送れるかは分かりません、しかし、仮に仕事を失うようなことがあったとしても友達に励まされながら、とりあえずどんな仕事でもやって食いつないでいく、近ごろの若者たちは、そんな柔軟さを持っているような気がします」。
出典:関水徹平・藤原宏美(2013)『独身・無職者のリアル』扶桑社新書 pp.109-110より抜粋。
この部分は藤原さんの執筆で、彼女らしいわかりやすい筆致です。大学入試資料に採用されたのを、とても喜んでいました。私にも嬉しいことです。特別な感じがするのは、それが集団的に厳選・検討された経過を推測できるからです。大学入試に採用されるのは、ことの性格上、事前に知らされず、試験終了後に採用の通知と承認を求められます。さらに受験生に対する過去問題集として出版物にも転載されます。藤原さんから贈られたのは『福岡県立大学/福岡女子大学 最近2年間の過去問題集 2024』(教学社,大学入試シリーズ:2023年11月)です。