先月の会報に『就労・結婚そして地域共生社会』を書きました。結婚に向かう男性側の思いの低下を、ひきこもり経験者の言葉を参考に「仕事に就けないのが基本原因」としました。加えて「子ども時代の愛着経験の欠如が尾を引いている」としましたが、この追加部分の具体例に書いていません。
「結婚することに何が期待できるのか、特に感じるものがない」と話した人は30代男性です。「大人になることは苦労と負担ばかりが多くなって大人になりたくない」と語ったのも30代男性です。この2人はひきこもり、半ひきこもり経験者ですが、この状態・気分はひきこもり経験者の範囲を超えていますし、男女の区別なく以前と比べれば大きく変わっています。
たとえば『ひきこもり国語辞典』(手作り版,2013年)のなかに次の言葉「巣をつくる」があります。
「巣をつくる ぼくは、自分の好きなことを職業や働き方に生かすのが将来の生活基盤づくりになると思ってきました(うまくいっているかは別ですが)。
ひきこもり気味の彼女がいて、言い分を聞くと巣をつくりたいのではないかと感じます。家庭という生活拠点づくりですね。
ぼくの生活基盤づくりと彼女の生活拠点づくりは似ているようですが何かが違います。というか彼女の話を聞くうちにぼくは生活基盤づくりを考えていたとわかりました。両方の合算が正解になると思います」。
ここには男女の役割分担の考え方があります。この役割分担のうち女性の社会進出(就業増加)により、男性の役割が減り(女性の役割が増大)、男女平等の経済的基盤が変わり、男女とも精神文化的に揺れ動いていると考えます。
もっともこのような経済生活面の変化が、精神文化的な変化に反映するには長い期間を要するものです。「巣をつくる」に極端に表われた男女分担ではなくとも、多くの人たち(男女ともに)に役割分担が広がっている、残っているのは少しも不思議なことではありません。
もう一歩深く見るとすれば、男女間のうち主に経済面で主な役割を持つと想定されている男性側の就業条件が停滞・悪化している点も認めなくてはならないでしょう。
さらに女性の生涯出生率が全国で1.20、東京都で0.99…という大都市と地方との格差を考えると、東京(大都市)の過密さ、住宅条件を含む生活条件が女性の出生率に影響していると考えなくてはなりません。それはほぼ結婚へ向かう意欲とか意識を低下させている結果と考えていいのです。
このような時間的(社会状況が時間経過で変わること)、地域的状態は全体的なことです。それが各人のいろいろな個別事情を通して表われているのです。個別事情は必ずしも全体事情と一致するわけではありませんが、個人事情、生活条件や気持ちや日常の細ごまとしたことは、この大きな流れのなかで生まれています。