その日はやや風が強かったのですが雨は降りそうではありませんでした。
前ぶれもなくGsくんがやってきました。ちょうど半年ぶりのことです。
何人かで作業をしている途中で私は手を放せません。
そんな私に、Gsくんは「傘を返そうと思って…」といって新しい傘を差し出しました。
半年前の帰りしなに雨が降ってきて、Gsくんは事務所の置き傘をさして帰ったのです。
そして半年後、新しい傘となって戻されたのです。
私はそんなことはすっかり忘れていた、いやそのときでさえGsくんが傘を持って帰ったことさえ知らなかったのです。
Gsくんのこれは一般の大人の律儀とは同じではなく、しかしそれに近いものでしょう。
それは少年の正直さに近いものですが、それとは同じとは言えないようです。
ただこのような律儀と正直さのない交ぜになった一途さを大人の振る舞いとして低く見たくはない気がします。それは当然なのですが、ないがしろにされやすいことなのです。それを実行したことが私の日常生活にある種の刺激を与えてくれます。